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めんどくさい女の子たち  作者: あかなめ
第五章 式波里砂と柊響
67/334

66 あと一歩前に

登場人物

・式波里砂(りさりさ)中三女子

・柊響(ひびきちゃん)中一女子

・早川智子ちこ(チーちゃん)中三女子

挿絵(By みてみん)



「〈伸びしろだらけ〉っていうのは、いくらなんでも呑気すぎないかな。入試まであと三ヶ月しかないんだよ」

 私は正直な感想を言った。しかしひびきちゃんは

「なに言ってるんですか? 伸びるに決まってますよ!」

と強く主張した。

「だって、たったの三ヶ月だよ」

 私はひびきちゃんが私のことを哀れんでいるのだとばかり思っていた。しかしそれは違った。

「いいですか。一日一生懸命勉強して、テストの点が1点だけ上積みできたとします」

「たった1点かあ」

「それを三ヶ月続けたらどうなると思いますか? 何点上積みできることになりますか?」

「……90点?」

 ひびきちゃんは大きくうなずいた。

「そうです。もしりさりさが今の点数に90点上積みできたら、どんな高校でも入れちゃいますよ」

「いやあ、それはさすがに……」

 90点はムリだとしても、何十点かはいけるんじゃないか、と私は本気で考えた。そして、希望の光が見えたような気がした。

「一日1点。これを目標に、昨日よりちょっとだけでも前に進むんです」


 ひびきちゃんは私に、スガシカオの〈Progress〉という曲を聴かせてくれた。2006年の古い曲だ。

「いい曲だね」

「母がスガシカオのファンなんです。あたしはスガシカオは生理的にムリなんですけど、この曲だけは別です」

 私はスガシカオ自体ぜんぜん知らなかったのだが、そのハスキーなのに甘い声は、みんなから取り残され、劣等感で干からびた私の心をやさしく潤していった。

「ひびきちゃん、ありがとう。あたしはもう余計なことは考えないよ。あと一歩前に進むことだけを日々考えることにするよ」

「わかってもらえて嬉しいです」


「でもひびきちゃんって、ホント昔の曲に詳しいよね。チーちゃんもたいがいだけど、ひびきちゃんはそれ以上な気がする」

「でもあたしは新しい曲も聴きますよ。小島麻由美が最新のチーちゃんといっしょにしないでくださいよ」

「あはは。バンドのみんな〈小島麻由美って誰?〉状態だったしね。だって、最新のオリジナルアルバムが2014年だよ。知ってるわけないよ」

「そうですよね」

「ひびきちゃんは知ってたくせに」

「たまたまですよ。父がファンなんです」

「そうだったんだ。で、ひびきちゃんはだれかのファンだったりするの?」

「あたしは断然、あいみょんです!」

 ひびきちゃんは鼻息荒くそう断言した。


「えー! そうだったんだー!」

「チーちゃんには内緒ですよ。ホントはチーちゃんの歌うあいみょん、すっごい聴きたいんですけどね」

 チーちゃんは声があいみょんによく似ている。それはとても素敵なことだとみんな思っているのだが、本人だけはなぜかそのことを気に病んでいる。

「あはは、言わないよ。そうなんだ、あいみょんが好きなんだ。意外」

「いいえ、あいみょんはですね、もう、好きとかじゃなくて……」

「じゃなくて?」

 ひびきちゃんはとつぜんガバッと立ち上がってこう言った。

「あたしの旦那になってほしい!って感じなんです! あたしの理想の旦那! それがあいみょん!」

 そしてグーにした右手を高々と上げた。

 この、湧き上がる忠誠心を四肢全体で表現する感じ、クラスのドルヲタとまったく同じだ──。

 いま私は、目の前にいる自分のまったく知らないひびきちゃんがおもしろくてたまらないでいる。

「もしかしてさあ、麦わら帽子を被ったら自分がマリーゴールドになった気がしたりするの?」

「もちろんですよ! で、雲が二人の影を残すから、なんてわけのわからない理由でちっともあたしを離してくれないんです、キャー!」

「そりゃあ困ったな。あいみょんは迷惑なやつだな」

「ホント迷惑です! いつまでも離さないからトイレにも行けないんですよ!」

 私はもう大満足した。

「そろそろ勉強しよっか」

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