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めんどくさい女の子たち  作者: あかなめ
第五章 式波里砂と柊響
63/334

62 ちんこ

登場人物

・柊響(ひびきちゃん)中一女子

・バンド〈デッド・ムーン〉メンバー

 ・りさりさ(式波里砂)(クール担当、ベース)

 ・すずみ(杉本鈴美)(厨二病担当、キーボード+打ち込み)

 ・チーちゃん(早川智子)(元気担当、ボーカル、リーダー)

挿絵(By みてみん)



 昼休み。今日もいつもの三人で机を寄せ合う。

 私が座ろうとしたとき、すずみが私に右手を差し出してきた。そして、

「握手」

と言った。

「?」

 私はなんのことかわからなかったが、とりあえず右手を出してすずみと握手をした。すずみは、うん、と何か納得した様子で、握手した手を二度、ぶん、ぶん、と振った。そして手を離し、椅子に座った。

 私も椅子に座った。

「りさりさも、今日からひびきちゃんとだね」とすずみが言う。

 ああ、そういうことか。

「うん」

「しかも今日はマンツーマンだよ。時間も無制限。なんて贅沢なんだろ。普通だったら一万円じゃきかないよ。よかったねー」

「うん」

「ひびきちゃんをいじめちゃだめだぞ、あれでもいちおう一年生なんだから」

「うん」

 私はうなずきながら上目遣いですずみを観察する。今日のすずみはちょっと変だ。終始ニコニコしているし、普段よりずっと饒舌だ。そういえば昨日のえりなも、怒った後はずっとニコニコしていて、ありえないほど距離が近く、見たことないほど饒舌だった。

 一人でベースを弾いてきた私には、私のベースに聞き耳を立て、音を重ねるみんなのことがなんにも見えていなかった。そんな愚鈍な私のことをこんなにも思ってくれて、私はただただ申し訳なく思う。

 私もみんなが大好きだ。


「でも、二人は平気なのか?」

 私は単刀直入に尋ねた。

「平気って?」とチーちゃんが尋ねる。

「一年生に教えられて」

「平気だよ」とチーちゃんが即答する。

「すずみは?」

「あたしも平気だよ。プライドとかないし」

「そうなのか」

 そういうものなんだろうか。そんなことをうじうじ気にしているホリーや私のほうが変なのだろうか。


「……とはさすがに言い切れないな」とチーちゃんが苦笑いしながら言う。「自信のあった英語でも勝てないんだからさ」

「あたしもね、数学以外はプライドゼロだから平気なんだけど、数学はね、やっぱ、ちょっとだけプライドがあるんだよね」

「そうか……」

 やっぱりそうなんだ。そりゃそうだよな。

「でもさ、くだらないプライドを削って合格できるんなら、あたしはプライドなんかいくらでも削ってやるけどね」とチーちゃんが言う。

「プライドってのはかつお節なんだよ。削れば削るほどいい香りがする」とすずみも言う。

 ああ、そうか。二人とも平気な風を装ってはいるが、平気なわけじゃなかったんだ。二人もちょっと辛かったんだ。私は少しほっとした。

 でも二人は〈だからイヤ〉だなんて幼稚なことは言わない。二人とも冷静に実利をとりに行っている。

「二人ともえらいな。大人だな」

 私がそう言うと、二人は、へへーん、とふんぞり返った。そしてチーちゃんが口を開いた。

「りさりさも今日からえらくなるんだよ」

「大人になるんだよ」とすずみも続けた。

「……」

 私は黙ってうつむき、顔を隠した。これまでの自分の言動が恥ずかしくなり、照れ臭さで顔がカーッとなったのだ。


「りさりさ」とチーちゃんが言った。「これはすずみのアイディアなんだが、柊のことを女だと思うな。男だと思え」

「は?」私はわけがわからなかった。「ひびきちゃんは、どっからどうみても女の子だよ」

「女装した天才少年だと思うんだよ」とすずみが言った。「IQ 200のちびっこ天才少年が、勉強のできない主人公のJCとかJKに家庭教師をする、っていう展開、少女漫画によくあるだろ」

「少女漫画は読まないからわからない」

「まあ、そういうのが定番であるんだよ」と、すずみが顔の前で両手を組んで私に諭すように言う。

「かわいらしい見た目の天才少年が、じつはドSで、うんと年上の主人公をバカだのアホだの罵倒してくる」

「そんなクソガキ半殺しにしてやれ」

「でもあるとき、少年が油断して年相応の幼さを見せてしまう。そこに主人公は、そして読者も、母性本能がくすぐられて胸がキュンキュンしてしまうのだよ」

「すずみ、おまえ真顔でなに言ってるんだ? それに、ひびきちゃんがドSなわけないだろ」

「あたしが言いたいのはつまり、ひびきちゃんのことを自分と同じ女子だと思うからモヤモヤしてしまうってことだよ。かわいい天才少年が親身になって教えてくれているって思えば、むしろ嬉しくなってしまうだろ」


「でも、もう一回言うけど、ひびきちゃんはどうみても女の子にしか見えないよ」

「とは言ってもさァ、りさりさはひびきちゃんの股間を見たことないだろ?」とすずみが頭のおかしなことを言う。

「当たり前じゃないか」

「じつは生えているんだよ、アレが」

「すずみ、それがおまえの言う〈知恵熱〉ってやつなのか。重症だな」

「心が折れそうになったときは、ひびきちゃんのちんこを想像するんだ」

「ねえチーちゃん、こいつ殴っていい?」

「じつは」とチーちゃんが申し訳なさそうに言う。「あたしもそうしてるんだ……」

「チーちゃん!?」

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