39 ごめんね
登場人物
・柊響(ひびきちゃん)中一女子
・久保田友恵(トモちゃん)柊響の同級生で友だち
・早川智子(チーちゃん)中三女子
・早川貴子(キーちゃん)高三女子で早川智子の姉
ごめんね、と言われて、わたしは少し考えた。
キーちゃんにすてきな彼氏ができて、なかよく手をつないでわたしの前に立ち、わたしを応援してくれる──もしそうなったら、わたしはどんな感じがするんだろう?
彼氏とキスをするその唇で、わたしとキスをする──それはどんな感じがするんだろう?
彼氏とセックスするその体を、わたしが──。
たぶん、わたしには無理なんじゃないか。
わたしはキーちゃんが大好きだ。
キーちゃんに彼氏ができても、この気持ちは変わらないような気がする。
大好きだから、さわりたい──ついさっきまではそうだった。
でも、彼氏のいるキーちゃんには、……さわりたいけど、さわってはいけないような、……いや、もしかしたらわたしは、さわられたくない、と思ってしまうかもしれない。
「ひびきちゃん、どうしたの? 黙りこくっちゃって」
「いえ、なんでもないですよ。ちょっと放心してただけです」
そう言ってわたしは立ち上がった。
トモちゃんはわたしによく抱きついてくる。
小学生のノリで。
わたしはそれが苦手だ。
ベタベタされるのが嫌なのではない。むしろ嬉しい。
嬉しいのだが、同時に悲しいのだ。
背後からワッとこられるその一瞬のあいだに、わたしは小さく心がときめき、同時に小さな失恋の痛みが胸に響いて苦しくなる。
恋愛感情のないトモちゃん相手ですらそうなのだ。
体と心は幾度となく、わたしとは無関係に反応してしまう。
わたしは自分の体と心に対しあまりに無力で、その無力さにいつもくやしくなる。
わたしは背負ってきた大きなリュックを手に取った。
「キーちゃんの教科書めあてで、このリュックを持ってきたんです」
「そうだったの」
「まさか、ほんとうに頂けるとは、って感じです」
笑うわたしをキーちゃんは呆れ笑いで下から見上げる。
「くどいようだけど、ほんとうに教科書なんかでいいの?」
「ええ、もちろん」
キーちゃんも立ち上がった。
「うち、ムダに家が広いから、なんでもかんでも捨てずにとってあるのよねえ」
そう言いながら、キーちゃんは押し入れの中に頭を突っ込んだ。
がさごそ、がさごそ。
キーちゃんのお尻が左右に揺れる。
わたしはつくづく無力だ。
「あー、これこれ」
キーちゃんが二つのダンボール箱を重そうに押し入れから引きずり出した。
「これ、中学校のときの教科書とかぜんぶ」
「こんなにあるんですね」
「さすがにこれ全部はリュックに入んないでしょ」
「今日は教科書だけ頂いていきます。残りはちびちび運びます」
わたしは、よいしょ、とリュックを背負って言った。
「じゃあ、チーちゃんにちょっとあいさつして帰ります」
「ひびきちゃん」
「はい」
キーちゃんは少し屈んでわたしにキスをした。
「好きよ」
「わたしもです」
「ほんとうよ」
「ありがとうございます」
「ごめんね」
「……」
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