21 信仰
登場人物
・柊響(あの人)中一女子
・久保田友恵(トモちゃん)柊響の同級生で友だち
・児玉くん 柊響の同級生で柊響に告白してきた
・稲垣良美(ガッちゃん)柊響の同級生で柊響をライバル視している
「ガッちゃーん! いるのはわかってるんだよー! コソコソしないで出てきなさいよー!」
あの人──柊さんが廊下で叫んでいる。
もう、まったく、なにからなにまで、圧倒的にかなわないや。
彼女、なんにも知らないし興味もないよ、って顔しといて、実はなんでもお見通しだったのね。ここに隠れていることすらも。
しかし柊さん、あなたはホントにひどい人だよ。
児玉くんにバレちゃったじゃない。
好きだということも、盗み聞きしていることも、卑怯者だということも。
柊さんはフったのか、フラれたのか?
それとも結ばれたのか?
疑問だけがぐるぐる回って頭がおかしくなっちゃいそうだ。
ダメだ。
もうキャパオーバーだ。
逃げよう。
コソコソとみじめに逃げるんだ。
わたしが正論を振りかざして踏み倒してきた人のように。
さよなら、児玉くん──。
「稲垣さん!」
児玉くんがわたしを呼んでいる。
ああもう、すっかり逃げ遅れてしまったよ。
ほんと、わたしはいつだってなにもかもが遅すぎる。
児玉くんの呼びかけは、まるで神の召命だ。
そしてこれは神様がわたしに与えた試練。
神父様はよくおっしゃっていた──神様は乗り越えられる試練しか与えない、と。
最後は必ず勝利する、と。
せっかくの日曜日に親に無理やり連れていかれ、嫌で嫌で仕方なかった教会の、磔にされたあのお方が、わたしの足を前に歩ませる。
──大丈夫。
児玉くんがいる。
柊さんもいる。
でも、大丈夫です。
わたしはきっとやりとげます──。
トモちゃんが柊さんを必死に引っ張っていく。
わたしは柊さんと目が合った。
すると柊さんは、なぜなのか、拳を握って、頑張れよ、とわたしに合図してきた。
なぜ?
わたしは柊さんにひどいことばかりしてきた。だから柊さんがわたしを応援するなんてありえないのだ。
……そうだ。
これは神の思し召しなんだ──。
わたしは神様に、頑張ります、と小さく頷いた。
柊さんとトモちゃんは遠くへ去ってしまった。足音から、物陰に隠れたりしていないのは明らかだった。
「児玉くん」
わたしは口を開いた。
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