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めんどくさい女の子たち  作者: あかなめ
第一章 柊響と早川貴子 その1
2/334

2 柊の葉には棘がある

登場人物

・柊響(ひびきちゃん)中一女子

挿絵(By みてみん)



 話は今から半年前、中学一年生の二学期にさかのぼる。




 わたしは部活に入っていないので直接は知らないが、部活に入っている人たちは高校受験をする先輩たちを間近で見てきた。

 そんな彼らが口を揃えて言うのは──。


「近寄りがたいよぉ」


 どことなく険しい表情。

 トゲトゲのオーラ。

 怒りっぽくなったり、逆に涙もろくなったり。

 そして狂気を感じさせるやけくそハイテンション。


 人ってこんなに変わるの?


 しかしこれは二年後の自分たちの姿なのだ──。


 二学期に入って三年生が部活を引退する頃から、わたしのクラスは高校受験の話で盛り上がることが多くなった。


 ──○○先輩は○○高校を受けるらしい。

 ──△△先輩は……。


 噂。噂。噂。

 高校のランクだけで先輩たちの全存在が値踏みされていく。

 嫌われ者の先輩が底辺の高校を受験することがわかったとき、その後輩たちは腹黒い悦びを隠しきれずにお互い、ぷぷぷ、と失笑する。

 逆にカリスマ先輩が上位校を受験するとわかったとき、信者の信仰心はぐぐぐーんと高まる。

 そして、あのやさしい先輩がそうでもない高校を受験するとわかったとき、わたしたちは信仰心が試される。


 ……とまあ、こんな感じ。

 みんな楽しそう。

 生きてるって感じがする。

 たとえるなら、みんなが運動会で盛り上がっているときに、わたしだけ保健室で寝ているような、そんな感じ。



 わたしはこの調子だと、地元で一番の公立高校である中部高校に通うことになるのだろう。偶然にも自転車通学圏内だし。

「ひびきちゃんは頭いいからいいよねえ」

「いつも学年で五位以内だもんね」

 そんなことを言われても、わたしはちっともうれしくない。

 なんだかみんなに邪険にされたような気がして、寂しくなってしまう。


 わたしは頭が悪いのだ。

 ずっと引っかかっている。

 このままでいいはずがない、という感覚だけがあって、どうすればいいのかがまったくわからないでいる。

 自分の尻尾を追いかけてぐるぐる回る犬のように、わたしは同じ場所でぐるぐる回り続けているのだ。


 わたしのような人間が、むなしさに押し潰されないで生きていくには、いったいどうすればいいのか──こんな意味不明な悩みは友だちに相談できるわけがない。

 わたしは勇気を出して担任の先生に話してみた。

 担任はいつもジャージ姿の若い男だった。

 男は苦手だ。

 しかし彼は少女漫画によくある、友達のようにフレンドリーな頼れる兄貴肌で、情に厚く、一線を越えることが決してない、どこまでも女生徒に都合のいい先生だ──と、弱りきったわたしはうっかり思ってしまったのだ。

 だが彼は即答で、

「柊はそのままでいいよ。悩む必要なんかぜんぜんない」

とだけ言い放った。


 最悪だ。


 なにが「なんでも相談してくれ」だ。うわべしか見えていないくせに。

 わたしは想像の中で担任の喉を掻き切った。

 担任は薄っぺらな笑顔のまま、ぴゅーと血を吹き出して死んでいった。



 わたしはただ、女の子が好きなだけなのだ。

 男が気持ち悪いだけなのだ。

 たったそれだけの秘密がとても苦しい。

 恋バナのできないわたしは、常にごまかし続け、嘘を吐き続け、誰とも心を通わせられないでいる。

 そんな規格不適合なわたしは、みんなと同じようにベルトコンベアーに乗っても、きっと不幸が募るだけなのだ。


 このままでいいはずがない。

 ずっと引っかかっている。


 わたしは頭が悪い。

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