197 もやもや
登場人物
・柊響(ひびきちゃん)中一女子
・久保田友恵(トモちゃん)中一女子、柊の同級生で友だち
・稲垣良美(ガッちゃん)中一女子、柊響の同級生、かつて柊響をライバル視していた
・吉田夏純 久保田友恵の同級生でクラス一おっかない女子
・畠中祐生(ハタケ)久保田友恵のとなりの席のチャラい水泳部員
朝、いつものようにトモちゃんと登校する。
傍から見ればただの友だち同士だろうが、わたしの中では葛藤があり、トモちゃんの中でもわたしとは違った葛藤があるのだと思う。
そんな葛藤を抱えながら、わたしたちはお互い相手に不快な思いをさせないよう、平静さと健やかさを取り繕っている。
トモちゃんは強い人だからそれがやすやすとできる。わたしもそうありたいと努めている。
それでも一緒に登校するのが楽しいことに変わりはない。
来週月曜日にバンドの五人がウチへ来ることを話すと、トモちゃんはすでにそのことを知っていた。五人とトモちゃんは文化の日、城址公園でちょっと顔を合わせただけなのに、妙なこともあるもんだ、とわたしは思った。
そしてトモちゃんはガッちゃんも招待したいと言う。五人とガッちゃんは何の接点もないはずなのに、じつに奇妙だ。しかしわたしが理由を尋ねても、トモちゃんはなにも教えてくれなかった。
ガッちゃんには他の人にはない不思議な魅力がある。わたしがガッちゃんと話す機会はあまりないが、そんな折が訪れたときには、わたしはつい楽しくなってテンションが上がり、たいていはガッちゃんを怒らせてしまう。おまけにこの間は介抱までさせてしまった。だからたぶんわたしはガッちゃんにすごく嫌われている。
なのに、そのガッちゃんがウチに来てくれるのだ。奇妙というほかない。
「まだ誘ってないんだけど」とトモちゃんは言った。「一応ひびきちゃんに了解をとってから誘おうかなって思って」
「あたしは構わないけど、……っていうか、来てくれるんだったらぜひ来てほしいけど、でもほら、あたしガッちゃんに嫌われてるから……」
「だったら仲直りすればいいよ」
「でも、あたしが何を言ってもガッちゃんは怒ってしまうんだ」
「ねえ、来てほしいの? 来てほしくないの?」
「うーん、明日決めるよ」とわたしは返事を先延ばしにした。
教室に入るなり、小柄なトモちゃんが大柄な吉田さんに廊下へぐいっと連れ出された。
大丈夫かな、とわたしは廊下をこっそり覗いた。が、二人はただ話しているだけで、脅されている様子ではなかった。わたしは首を引っ込め、自分の席に戻った。
しばらくすると、二人は笑みを浮かべながら教室に入ってきて、始業のチャイムが鳴った。
なにがあったんだろう?
一時間目が終わったあとトモちゃんに尋ねようと思ったが、そのときには隣の畠中くんとなんだか楽しげに話していて入り込めなかった。
二時間目は体育だったので、その前後の休み時間には尋ねられなかった。
そして三時間目の終わりも給食の時も、ずっと畠中くんと楽しそうに話している。
給食は〈とやま野菜のカレースープ〉だった。教室に立ちこめるカレーのにおいにわたしは吐き気を覚えて外に出た。
そして今日も保健室に向かった。
トモちゃんとバンドの五人。
トモちゃんとガッちゃん。
トモちゃんと吉田さん。
トモちゃんと畠中くん。
もやもや、もやもや、としながらわたしはベッドに横になっていた。
トモちゃんが見舞いに来てくれたら全部訊こうとわたしは心に決めていたのだが、結局トモちゃんは来てくれなかった。
なんで……。
いやいや、これではまるで、独占欲丸出しの重たい女じゃないか。ああもう最悪だな。
時計を見ると三時二一分。あと九分で六時間目が終わり、掃除が始まる。授業をサボっても誰も何も言わないが、掃除は出ないとひんしゅくものだ。
「ありがとうございました」とわたしは先生に言って保健室を出た。
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