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めんどくさい女の子たち  作者: あかなめ
第七章 柊響と早川貴子 その3
196/334

195 ポ

登場人物

・柊響(ひびきちゃん)中一女子

・早川貴子きこ(キーちゃん)高三女子、公営アイドル〈北陸パピプペポ〉に内定

・早川智子ちこ(チーちゃん)中三女子、貴子の妹

・久保田友恵(トモちゃん)中一女子、柊の同級生で友だち

挿絵(By みてみん)


「富山は〈パピ〉、福井は〈プペ〉」とわたしは言った。

「そう」とキーちゃんは答えた。

「じゃあ、〈ポ〉は?」

「〈ポ〉は観客のみんな!」

「そういうことですか」

「意外によくできてるでしょ」


「でも、じゃあ、石川の三人はなんなんですか?」

「〈石川ポッパーズ〉はね、〈前田利家〉だから、つまりは〈北陸〉なの。そんで、みんなあわせて〈北陸〉〈パピ〉〈プペ〉〈ポ〉」

「やっぱ石川だけズルいですよ」

「でもね、いいほうに考えて」とキーちゃんは言った。「あたしはね、見た目は大したことないし、ダンスなんてぜんぜんできないし、頼りになるのは歌しかない人間だけど、たまたま富山っていう田舎にいたから拾われたんだと思うの」

「そんなことないですよ!」


「違うよひびきちゃん」とキーちゃんはわたしをたしなめた。「都会にはね、見た目もダンスも歌も凄い子がわんさといるんだから。そんな子たちがね、バイトで食いつなぎながら、身銭を切って練習して地下アイドル活動とかして、オーディションを受けまくって落ちまくって、それでも歯を食いしばって数少ないファンに一生懸命笑顔を届けてるんだよ。とてもじゃないけど、あたしはそんな子たちには勝てそうにないな」

「キーちゃん……」

「富山じゃなくて石川だったらあたしは埋もれてたと思う。そんなあたしが、石川で選ばれた精鋭たちの隣でステージに立てるなんて、すっごくラッキーだとは思わない?」


 わたしはキーちゃんのポジティブ思考にズキューンと心が打たれた。

 今日は午前中にトモちゃんの強さを知り、いまこうしてキーちゃんの強さを知った。そして言わずもがな、チーちゃんたちもみんな強い。

 わたしのまわりにたまたま強い人ばかりがいるのか、あるいはこれくらいの強さは普通で、単にわたし一人が弱いだけなのか。

「どうしたらキーちゃんみたいな強い人間になれるんですか?」とわたしは尋ねた。

 しかしキーちゃんはさらりとこう言った。

「ひびきちゃんにはムリよ」


 キーちゃんは続けた。

「挫折しては這い上がる。それを繰り返していくときっと強くなれるんだと思う。でもひびきちゃんは頭いいから、挫折なんてしたことないでしょ?」

「たしかに、勉強では挫折を知りません。ですが、それ以外では挫折しかないんです……」

 わたしはキーちゃんの目をじいっと見つめた。

 そして、また優しさを強いてしまった、と気づき、あわてて目を背けた。


「いや、なんでもないです」とわたしは笑顔で取り繕った。

「ごめん、悪かった」とキーちゃんはわたしに謝った。「そうだよね。辛いんだよね。学校でも家でもずっとひとりぼっちだもんね」

「いえ、いまでは友だちがいます」

「でも言えない」とキーちゃんはわたしを抱き寄せた。「相手が心を開いてくれればその分だけ、言えないことが余計に辛くなるんだよね」


 わたしはキーちゃんの胸に顔を(うず)めた。キーちゃんはわたしの髪を優しく撫でてくれる。

「挫折ばかりで、這い上がったためしがないんです」とわたしはキーちゃんのみぞおちにくぐもった声を発した。

「〈涙の数だけ強くなれるよ〉ってフレーズがあったよね」とキーちゃんが言った。「だからひびきちゃんも強くなれるよ」

「……はい」

「だからムリにしっかりしたフリなんかしないでね。引きつった笑顔のひびきちゃんなんか見たくないし」

「……すいません」


 〈しっかりした人間になる〉というわたしの目標は、キーちゃんが甘やかすせいですぐに(つい)えてしまった。

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