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めんどくさい女の子たち  作者: あかなめ
第七章 柊響と早川貴子 その3
194/334

193 will

登場人物

・柊響(ひびきちゃん)中一女子

・早川貴子きこ(キーちゃん)高三女子、公営アイドル〈北陸パピプペポ〉に内定

・早川智子ちこ(チーちゃん)中三女子、貴子の妹

・式波里砂(りさりさ)中三女子、智子の同級生でバンド仲間

・杉本鈴美(すずみ)中三女子、智子の同級生でバンド仲間

挿絵(By みてみん)


 昨日は自作解答を渡してすぐに帰ってしまったので、今日は質問に答えている。


「〈いつかあの山に登る〉っていう文には意志が込められているから be going to じゃなくて will にしないといけないですね」と、わたしはチーちゃんの英作文の答案を見ながら言った。

「じゃあ〈元旦にあの山に登る〉だったらどうなるんだ?」とチーちゃんが質問する。

剱岳(つるぎだけ)だったら will で、呉羽山(くれはやま)だったら be going to ですね」

 剱岳は日本でもっとも登頂がむずかしいと言われている岩山、かたや呉羽山は近所の公園で、標高はたぶん 100m もない。車があればすぐに行ける。

「めんどくさいな」とりさりさがぼやく。


「たとえば同じ〈明日学校に行く〉っていう文でも、主語があたしたちだったら be going to で、不登校の生徒が勇気を出して登校する場合は will なんです」

「要は〈行く〉と〈行くぞー!〉の違いなんだね」とすずみちゃんが言う。

「そうです」

「AIだとそういうとこは教えてくれねーんだよな」とチーちゃんがぼやいた。


 テスト結果は、平均点がわからないので正確には言えないが、三人とも合格圏内にいるように思えた。特にりさりさの伸びは目覚ましく、二人と較べても遜色ないところまで這い上がってきてくれた。

「ベースを預けただけでこんなに成績が伸びるなんてすごいですね」とわたしは正直に感想を言った。

「みんなのお陰だよ」とりさりさは言った。「ありがとう」

 その〈ありがとう〉の言葉があまりに素直だったので、わたしたちはすっかり面食らってしまった。

「お前、なんか変わった?」とチーちゃんが尋ねた。

 りさりさは「まあね」とだけ答えた。


 そして最後に五〇分間の集中タイム。

 わたしは部屋を出ると、廊下に立ったまましばらく考えた。


 わたしはキーちゃんに優しさを強いるような人間から脱したかった。

 相談には乗れないまでも、せめて愚痴や心配事を気兼ねなく話しても大丈夫だ、というくらいには思われたかった。

 そのためにはわたしがオロオロしていてはいけない。心配事を吐露されても、〈キーちゃんは○○だからきっと大丈夫だよ〉と元気を与えるようなしっかりした存在でなくてはいけない。

 そして、しっかりした人というのは概して、しっかりしようという強い意志があるからしっかりしているのだ。

 わたしにはそういう意志が決定的に欠けていた。だからわたしは醜態をさらしてばかりで、キーちゃんに窮屈な思いをさせてばかりいたのだ。


 〈脱したい〉ではダメだ。

 脱するのだ──強い意志を持って。

 ダンスのうまい人たちに追いつこうと必死になっているキーちゃんの、その強靱な精神力に負けないくらいの強い意志を持って。

 今からキーちゃんの部屋を五回ノックする。これまでは be going to だったが、今日からわたしは will でいくのだ。

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