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めんどくさい女の子たち  作者: あかなめ
第七章 柊響と早川貴子 その3
193/334

192 飴玉

登場人物

・柊響(ひびきちゃん)中一女子

・早川貴子きこ(キーちゃん)高三女子、公営アイドル〈北陸パピプペポ〉に内定

・早川智子ちこ(チーちゃん)中三女子、貴子の妹

・式波里砂(りさりさ)中三女子、智子の同級生でバンド仲間

・杉本鈴美(すずみ)中三女子、智子の同級生でバンド仲間

挿絵(By みてみん)


 三年生は月火が一斉テストで早帰りだったので、今日は久しぶりにチーちゃんたちと帰った。

 三年生の教室がある三階まで上がり、C組の教室の出入り口から顔を覗かせると、中には三人のほかにホリーとえりなちゃんもいて、なにやら話し込んでいた。

 わたしは廊下の窓にもたれてみんなが話し終わるのを待つことにした。

 廊下を歩く三年生の人たちがわたしをチラチラと見てくる。制服のリボンの色で学年がすぐに分かるのだ。きっと〈一年生が何をしてるんだ?〉と訝しんでいるのだろう。


「あのう」とわたしは知らない三年生の女子二人に声をかけられた。自分がなにかいけないことをしたのかなと思い、わたしは「すいません」と謝った。

「とつぜん声をかけてすいません。この問題、わかりますか?」

 それは二次関数上の三点を結んでできる三角形の面積を二等分する、定点Pを通る直線を求めよ、という問題だった。

 わたしが解き方を教えると、二人は「ありがとう」と嬉しそうに言ってわたしに飴玉をくれた。イチゴ味の飴玉だった。二人は、瞬殺だったね、と言いながら帰って行った。


「おまたせ」とチーちゃんたちが出てきた。

「久しぶりィ」とえりなちゃんが言ってくれて、ホリーはニコニコと手を振ってくれた。

「お久しぶりです」

 わたしが会釈すると、じゃあね、とホリーとえりなちゃんは帰っていった。


「ところでお前、なんかいい匂いがするな」とチーちゃんが言った。

「いま飴ちゃんもらったんです。知らない人から」とわたしは答えた。

「なんだよそれ」とりさりさが言った。

「いま三年は勉強しすぎて気が触れてる奴が多いから気をつけてね」とすずみちゃんがわたしを諭してくれた。


「来週の月曜日、お前ン()行ってもいいかな」とチーちゃんが言った。

「あ、……はい」とわたしは答えたが、キーちゃんに会えないのは残念だなあ、と思った。

「お二人も来ますか?」

「いいや」とすずみちゃんが言った。「五人で行くよ」

「えっ? またなんで?」

「それはちょっと言えないな」とりさりさが言った。

 五人そろって話していたのはこのことだったんだな。そういえばホリーとえりなちゃんもなにか隠し事があるような笑顔だったし。

「あのう、ウチ、早川邸や式波邸みたいに広くないですよ。ほんとフツーの家なんですけど、いいんですか?」とわたしは念を押した。

「ぜんぜんOK」とチーちゃんは答えた。


 早川邸の中に入ると、もはや耳慣れたダンス音楽と講師の声がリビングから聞こえてくる。

 キーちゃんはダンスの練習をしながら廊下を歩くわたしたちに手を振った。そしてまたタブレットに視線を移した。

 その真剣な表情にわたしは見とれてしまう。

「貴子さん、だいぶうまくなったね」とすずみちゃんが言った。

「周りがみんなダンスのうまい子ばっかりだから必死なんだよ」とチーちゃんが言った。

「えっ、もうメンバー決まってるんですか⁉」とわたしは大声を出してしまった。

「ああ。それは聞いてなかったのか?」

「はい」

「みんな小中学生の頃からアイドル養成所みたいなところでがんばってきた子ばっかりらしいぞ」


 わたしは愕然とした。

 わたしはいつもキーちゃんの練習する姿にほっこり癒やされてきた。

 しかしそんな呑気な話ではなかったのだ。

 キーちゃんはひとり戦っていたのだ。

 わたしはなにも知らなかった。


 ムカつく、と言っただけで泣いて動揺するわたしなんかに、キーちゃんは自分の心配事など言えるわけがなかったのだ。キーちゃんは心配性のわたしを安心させるような、甘いだけの言葉しか口にできなかったのだ。

 どうりでキーちゃんはわたしに優しかったはずだ。

 それは、わたしがキーちゃんに強いていた優しさだったのだ。

「おい、行くぞ」

 チーちゃんに促されて、わたしはリビングを後にした。

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