191 ゲーム
登場人物
・柊響(ひびきちゃん)中一女子
・久保田友恵(トモちゃん)中一女子、柊の同級生で友だち
・稲垣良美(ガッちゃん)中一女子、柊響の同級生、かつて柊響をライバル視していた
・円谷れい子 保健室の先生
トモちゃんが帰ってひとりベッドに横になっていると、ふとゲームの問題が思い浮かんだ。
【問】
AさんはBさんを愛おしく思っている。AさんがBさんにキスをするとAさんに+1点が入る。拒まれれば−1点。
BさんはAさんを独り占めしたいと思っている。独り占めできたら+3点。できなければ−3点。
AさんはBさんに独り占めにされると大切な人を失ってしまう。−5点。
BさんはAさんのキスを受け入れると独り占めを放棄したことになる。−3点。
AさんとBさんの合計点が一番高くなるのはどのような場合か?
【答】
AさんがBさんにキスをすると、Aさんは+1点、Bさんは−3点で、合計−2点。
BさんがAさんを独り占めすると、Aさんは−5点、Bさんは+3点で、合計−2点。
よって、Aさん、Bさんともに、自分の願いを叶えようとすると合計点がマイナスになる。
以上より、合計点が一番高くなるのは、Aさん、Bさんともになにもしない場合である。(終)
が、この問題には考慮漏れがひとつある。
BさんがAさんにキスをする場合だ。
この場合、Aさんは自分からキスをした以上の満足が得られ、Bさんも独り占めできる可能性を保持したままでいられる。よって二人の合計点はプラスになる。
わたしたちは意識することなくそのような行動を取っていたのだ。
だが、そんな宙ぶらりんな状態は長続きしない。
だからわたしはBさんに、AさんではなくCくんを独り占めしてほしいと願う。そうすれば、AさんはBさんにキスができて+1点、BさんはCくんを独り占めできて+3点で、計+4点だ。
女の子を好きになるなんて辛いだけなので、トモちゃんにはぜったいにお勧めしない。
給食の匂いでわたしは目を覚ました。
体を起こし、カーテンを開けて立ち上がると、先生が「おはよう。食べるかい?」と言ってくれた。二つある保健室登校生用の机にはわたしの分の給食が用意されていた。
「じゃあ、牛乳だけ」
「そうかい」
「せっかく用意していただいたのに、残してすいません」
「気にしなさんな」
「ありがとうございます」
わたしは冷たい牛乳を飲んで、お世話になりました、と保健室を出た。
昼休みの教室に戻るとトモちゃんの姿はなかった。
わたしが机に突っ伏して寝ていると、「ねえ、大丈夫?」と声がした。
顔を上げると、目の前にガッちゃんのちょっと危険なお腹があった。ツンツンつつきたかったが我慢した。
「ガッちゃん、この間はごめんね」とわたしは謝った。
「柊さん、最近なんだか変だよ」
「ガッちゃんこそ」
わたしがそう言うと、ガッちゃんはひどく焦った顔をした。事実、ガッちゃんはここ数日思い詰めたような様子でいる。
ガッちゃんは苦し紛れに、「質問に答えてよ。大丈夫なの?」とわたしに尋ねた。
「心配してくれてありがとう。あたしは変。ガッちゃんも変。だけどあたしはガッちゃんの心配をぜんぜんしない。ひどい薄情者だよね」
そう言うと、ガッちゃんはムッとする代わりに哀れむような顔をした。
「柊さん、やっぱり変だよ」
「ガッちゃんこそ」
そう言ってわたしは吹き出しそうになった。
「質問に答えてよ。大丈夫なの?」と、ガッちゃんが腹立たしげに三度尋ねる。
「ありがとう。とっても嬉しい。もう抱きしめたいくらい」
「ぜんぜん反省しないじゃないの」
「大丈夫だよ」とわたしはウソをつき、心の中でガッちゃんのプヨプヨした体を抱きしめた。
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