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めんどくさい女の子たち  作者: あかなめ
第七章 柊響と早川貴子 その3
191/334

190 心の強い人

登場人物

・柊響(ひびきちゃん)中一女子

・早川貴子きこ(キーちゃん)高三女子、公営アイドル〈北陸パピプペポ〉に内定

・早川智子ちこ(チーちゃん)中三女子、貴子の妹

・久保田友恵(トモちゃん)中一女子、柊の同級生で友だち

挿絵(By みてみん)


 カーテンの向こうで、失礼します、と声がした。

 トモちゃんだ。

 わたしは身を起こした。


 トモちゃんはカーテンの内側へ入るなり「ごめん」と笑顔で謝った。「さっきはちょっと言い過ぎたよ」

 わたしは胸をなで下ろした。こういう気持ちの切り替えがトモちゃんはうまいし、ズルい。

「じゃあお詫びのキスをして」とわたしは冗談で言ってみた。

 するとトモちゃんの笑顔が少し引きつった。ムッとしたのかな? それとも、その逆なのかな?

 しかしトモちゃんの逡巡は二秒と保たなかった。

「いま言ったの取り消し」とトモちゃんはすぐに笑顔に戻って答えた。

 お互い、今朝の話はもうしなかった。


 トモちゃんのほうが言い出しづらかったはずなのに、そして悲しい気持ちを抱えているはずなのに、まるで何事もなかったかのように、トモちゃんはこうしてわたしに明るく接してくれている。

 トモちゃんは小さくて、優柔不断な八方美人のように見えて、じつはとても芯のある、心の強い人だったんだな、とわたしは今さらながら気づいた。

 だからわたしは、この人にならそれなりのことを吐露しても受け止めてくれるに違いない、と思った。


「正直言うとね、トモちゃんの感情が一気にどわっと入ってきて胸が苦しくなるんだ」とわたしは話した。

 トモちゃんの表情がスッと曇る。

「……あたしにどうしてほしいのかな?」

「今まで通り一緒にいてほしい。そのままでいてほしい。トモちゃんだけじゃない。みんなそのままでいてほしい」

 するとトモちゃんはため息をついてこう言った。

「大丈夫だよ、みんなそのままでいると思うよ」

「でもね、みんなはちょっとあたしに優しすぎるんだ。それに応えられない自分のポンコツさに泣けてくるんだ。自分の中がもうむちゃくちゃで困ってるんだ」


 わたしはそう話し終え、放心した。そして、自分で言った内容に自分で驚いていた。

 わたしは長い間、まわりの人みんなが〈勉強のできる人〉としての自分しか見てくれないことに寂しさを覚えてきた──と思っていた。

 しかしこの〈勉強のできる人〉は、盾としてわたしをずっと守ってくれてもいたのだ。だから本体のわたしは弱っちいまま何の成長も遂げていない。


 だが、この盾で防げないものが現れ始めた。

 人の思いだ。

 トモちゃんやチーちゃんたち、そしてキーちゃんの思いは、盾をすり抜け、本体へと直接届いてしまう。

 それを望んでいたはずのわたしは、人の思いを受け止めきれずに、ただ負い目だけがどんどん積み重なっていたのだ。

 そうだったんだな、とわたしは気づいた。


「なんとかするよ」とトモちゃんは言ってくれた。

 わたしは驚いた。解決策なんてどこにもなさそうなのに、この自信はどこから来るのだろうか、と。

「どうするの?」とわたしは尋ねた。

「ノーアイディア」とトモちゃんは言い放った。

 わたしはその無責任さに、逆に心が軽くなった。強い人というのは、見通しの立たない場所でも、進むべき時はたくましい楽観主義でずんずんと進んでいくのだろう。

「アハハハ、いいかげんだなァ」

 わたしはトモちゃんの、なんとかしたい、という心意気だけで十分嬉しかった。


「さ、もう少し寝ようよ。あたしは教室に戻るよ」とトモちゃんは言った。

 わたしはトモちゃんの手を握って「ねえ……」とせがんだ。

 トモちゃんは意味がわからない様子だったので、わたしは二度手をクイクイと引っ張った。するとトモちゃんは身をかがめてくれた。

「……うん、いいよ」

 わたしが目を閉じると、唇に柔らかくて温かいものを感じた。

※ 今回の話は〈101 ノーアイディア〉をひびきちゃん視点で描いたものです。


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