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めんどくさい女の子たち  作者: あかなめ
第七章 柊響と早川貴子 その3
189/334

188 構わない

登場人物

・柊響(ひびきちゃん)中一女子

・早川貴子きこ(キーちゃん)高三女子、公営アイドル〈北陸パピプペポ〉に内定

・久保田友恵(トモちゃん)中一女子、柊の同級生で友だち

挿絵(By みてみん)


「ひびき、風呂に入りなさい」と母さんに無理矢理起こされたのが夜九時で、ベッドの上にはわたし一人だった。果たしてほんとうにトモちゃんが部屋にいたのか、あるいはそういう夢を見ていただけなのか、起き抜けのわたしはいまいち確信が持てずにいた。

「お母さん、おかえり」とわたしは言った。

「ただいま」と母さんは答えた。


 階下に降りると小さな音でマイルズ・デイヴィスが流れていた。ということは、今夜はウイスキーを呑んでいる。

「お父さん、おかえり」

「ただいま。胃の調子はどうだい?」

「だいぶ良くなったよ」

「そうか。なんか食べるか?」

「あとでバナナ食べるよ」


 わたしは脱衣場で服を脱ぎ、洗濯機を回して風呂に入る。

 湯にそうっと浸かると冷えた皮膚がお湯の熱さで痺れたようになる。が、痺れはじわじわと和らいで、やがてお湯と体の境目が分からなくなる。わたしは皮膚の所在を確かめるように手のひらで腕や胸をゆっくりとさする。


 キーちゃんとキスをするときは、わたしから重ねたときも、自分がされているという感覚しかない。

 トモちゃんは違う。重ねてきたのはトモちゃんからだったが、明らかにわたしのほうがする側だった。


 トモちゃんは小さくて、わたしに優しくて、わたしを本気で心配してくれて、わたしに感情をあらわにし、わたしに対して裏表がなく、わたしに真っ直ぐだった。

 わたしはそんなトモちゃんが愛おしかった。


 わたしが反射的にトモちゃんを襲ってしまったのは、頭が夢うつつだったからではなく、自覚のないままずっとそうしたかったからなのかもしれない。

 キーちゃんもこんな気持ちなのだろうか。


 わたしはいつのまにか湯船で気持ちよく眠ってしまっていて、洗濯機のピーという音で目を覚ました。

 わたしはタオルで体を拭き、湯を抜いて浴槽に液体洗剤をかけ、浴室に洗濯物を干し、洗剤をシャワーで洗い流した。そうして自分の仕事を終えると、わたしは脱衣所に出て浴室乾燥のボタンを押した。


 バナナを二本食べ、冷たい牛乳を飲んだらまた眠たくなった。今日はいくらでも眠れる気がする。特大の生理でも来るのかな?

 わたしはベッドの端で愛しいトモちゃんの残り香を探しながら眠った。


 翌朝のトモちゃんは不機嫌だった。

 わたしは昨夜のことを詫びた。それでも不機嫌は直らない。

 だからわたしは、もうぜったいにしない、と誓った。するとトモちゃんは強い口調で驚くべきことを言った。


「あたしは別にいいんだよ。構わないんだよ」


 構わない???──わたしは一瞬で頭が真っ白になった。しかし続く言葉で、今度は頭が真っ黒になった。


「でもね、みんなに、ってのはイヤなんだよ!」


 わたしは自分に優しくしてくれる女の子のほとんどみんなにキスしたい衝動を覚えていた。そのことにトモちゃんは怒っていたのだ。

 自分を襲うのは構わないが、もしそうするのであれば、相手は自分一人でないと許さない──トモちゃんはそう言っていたのだ。


 わたしはトモちゃんが愛おしい。しかしそれは〈好き〉とは違う。わたしはトモちゃんの恋を応援したいし、そんながんばるトモちゃんにキスしたいと思い続ける──。

 キーちゃんがわたしに話してくれたことを、わたしはそのままトモちゃんに話した。

 キーちゃんが正直に自分の気持ちを伝えてくれたとき、わたしは失恋の痛みと同時に、その誠実さに心が打たれ、キーちゃんへの想いがますます強くなった。

 トモちゃんはどうなんだろう?


 しかしトモちゃんは不機嫌なまま前を向いて、いっさい口をきいてくれなかった。

※ 今回の話の後半は〈100 距離感〉をひびきちゃん視点で見たものです。


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