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めんどくさい女の子たち  作者: あかなめ
第七章 柊響と早川貴子 その3
188/334

187 初恋

登場人物

・柊響(ひびきちゃん)中一女子

・早川貴子きこ(キーちゃん)高三女子、公営アイドル〈北陸パピプペポ〉に内定

・久保田友恵(トモちゃん)中一女子、柊の同級生で友だち

挿絵(By みてみん)


 自分の部屋に戻ると、ベッドで横になっていたトモちゃんが苦笑いでわたしを迎えてくれた。

 トモちゃんがわたしに求めることはただひとつ、〈寝ろ〉だった。まだ六時前だよと言っても〈寝ろ〉の一手だった。

 わたしが寝間着がわりのスウェットに着替えると、トモちゃんはベッドの端に寄って「一緒に寝ようよ」と言った。わたしが寝入るまで見届けるつもりなのだろう。

 わたしがベッドに横になると、トモちゃんがわたしを跨いで照明を消した。


 二人でシングルベッドに寝ているので手が当たる。わたしたちはなんとなく手をつないだ。

 添い寝はいいな。

 とても心穏やかだ。

 キーちゃんと横になってもこんな風に穏やかにはなれない。


 わたしは手を離し、体をトモちゃんのほうに向けた。するとトモちゃんも同じ事をしてくれた。

 わたしはトモちゃんに「お母さん」と呼びかけた。

「なあに」とトモちゃんはわたしの冗談に乗ってくれた。

 わたしたちは顔を見合わせて少し失笑した。

「お母さん」とわたしは懲りずに呼びかける。

 トモちゃんは吹き出し気味に「なあに」と問いかける。

「おやすみのキスをしてほしいな」

 トモちゃんはただ、フフッ、と笑うだけだった。

「おやすみ」とわたしは言って仰向けになり、瞼を閉じた。耳元でトモちゃんが寝返りを打つ布団の衣擦れが聞こえる。


 わたしはキーちゃんの夢を見ていたのだと思う。

 とてもエッチなやつを。

 だからわたしは唇に何かが触れたとき、キーちゃんが〈スイッチ〉を入れたのだと夢の中で思ってしまったのだろう。

 すべての認識があいまいで、自制心は停止している。わたしは餌を前にした魚のように、目の前の餌へ反射的に食らいついた。


 ──だましたなァ


 そんな声で目がすこし覚めると、わたしが食らいついていたのはトモちゃんだったと気がついた。

 しかしその口調とは裏腹に、トモちゃんはわたしを押しのけたりはぜんぜんしなかった。わたしは薄明かりを受けたほのかに青白いトモちゃんの顔を惚けたように眺めた。わたしが寝ぼけていたせいもあるだろうが、そんなに怒っているようには見えなかった。


 食らいついてわかったのだが、トモちゃんの体はわたしの中にすっぽり収まるほど小さかった。

 わたしは自分の性的指向を決定的に思い知らされた、小学五年生の宿泊体験を思い出した。


 〈立山青少年自然の家〉の大浴場で、わたしは同級生たちの裸に心を奪われてしまった。うすうす感じていたことが、否定できない事実としてわたしに頑と突きつけられた。そして、それはいけないことだと強く思った。

 そこですぐに風呂からあがればよかったものを、誘惑に負けたわたしは湯船の隅でひとり、同級生たちを汚いまなざしでチラチラとのぞき見し続けた。ついにはのぼせてしまい、わたしは脱衣場でしばらく横になっていた。


 ──大丈夫?


 真っ裸のまま、服を着るよりも先にわたしのことを心配してくれる人もいた。そんな優しい同級生たちを、わたしは汚らしい目つきで舐めるように見てしまう。

 わたしは自分がおぞましかった。


 寝起きでぼんやりした頭の中で、トモちゃんの小さな体が、あのときわたしを心配してくれた小さな同級生のひとりとダブって見えてしまった。


 ──心配してくれてありがとう


 わたしは心の中でそう言って、その子にキスをした。

 気づくと同時に終わってしまったわたしの初恋の人は、親が離婚してどこかへ転校していった。わたしと同じく友だちのいない、トモちゃんとは真逆のおとなしい女の子だった。

 学区の違うトモちゃんは知らない。

 わたしはトモちゃんが抵抗しないことをいいことに、もう一度その子にキスをして、さよならを伝えた。

※ 今回の話は〈94 個室〉〈95 ぐるぐる〉をひびきちゃん視点から眺めたものです。


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