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めんどくさい女の子たち  作者: あかなめ
第七章 柊響と早川貴子 その3
187/334

186 束縛

登場人物

・柊響(ひびきちゃん)中一女子

・早川貴子きこ(キーちゃん)高三女子、公営アイドル〈北陸パピプペポ〉に内定

・早川智子ちこ(チーちゃん)中三女子、貴子の妹

・式波里砂(りさりさ)中三女子、智子の同級生でバンド仲間

・杉本鈴美(すずみ)中三女子、智子の同級生でバンド仲間

・久保田友恵(トモちゃん)中一女子、柊の同級生で友だち

【みてみんメンテナンス中のため画像は表示されません】


「ちょっと待って」

 わたしはトモちゃんにそう言うと、部屋を出て扉を閉め、階段を中ほどまで降りた。

 そこから一階のリビングを見やるとキーちゃんがまだダンスの練習をしている。わたしはその場にしゃがんでトモちゃんに「いいよ、廊下に移動した」と囁いた。


 トモちゃんは早退したわたしを見舞いに、学校帰りにわたしの家へ立ち寄ってくれていたのだ。携帯越しのトモちゃんのものすごい剣幕は、わたしのことを本気で心配してくれている証しだった。

 わたしはキーちゃんの気持ちはおろか、わたしにもっとも優しくしてくれるトモちゃんの気持ちまで踏みにじっていたのだ。


 トモちゃんの悲鳴にも似た泣きそうな声がわたしの心臓をグサグサと突き刺してくる。どこまでも真摯なトモちゃんに対し、わたしの口からは出まかせの汚れたウソしか出てこない。わたしは申し訳なさと自己嫌悪があふれ出て声を殺して泣いてしまった。


 キーちゃんがわたしの姿を認めて階段を上ってくる。

 わたしは逃げようにも足に力が入らない。

 わたしは涙に濡れたひどい顔をキーちゃんにさらしてしまう。

 なのに、どうしてキーちゃんはこんな薄情なわたしに笑いかけてくれるのだろう?

 キーちゃんはわたしの二段下に腰を下ろした。そして左手を上にかかげ、わたしの左手を握ってくれた。

 そして大きくうなずいてくれた。


 左手でキーちゃんから力を受け取りながら、わたしはトモちゃんに「今すぐ帰るよ」と告げた。「十五分で家に着く。だから、あたしの部屋で待っていてほしい」

 それに対しトモちゃんが「うん、わかったよ」と答えてくれたので、わたしは「ありがとう」とお礼を言った。

 そして電話は切れた。


 キーちゃんが手を離した。そのとき手にピチャッという、化粧水をつけるときのような感覚を覚えた。

「ものすごい手汗すいません」とわたしは詫びた。

「いいのよ。あたしも全身汗まみれだし」

 キーちゃんは軽くそう言ってわたしの手汗をタオルで拭いてくれた。

「今日は帰っちゃうのね」

「すいません」

「だったらほら、早く支度して。十五分なんてすぐよ」とキーちゃんは明るい声でわたしを急かした。

「……理由は訊かないんですね」

 そう言うわたしにキーちゃんは鼻で笑ってこう答えた。

「束縛はしない主義なの」


 わたしはチーちゃんの部屋へ戻る前、どんな言い訳をしようかと一瞬考えた。が、今日はもうウソをつきすぎてしまったので、わたしは部屋に入るなりストレートにこう言った。

「すいません、急用で帰らせていただきます」

 すかさずりさりさとすずみちゃんが「どうしたの?」と尋ねてくる。

 それにわたしが口ごもっていると、チーちゃんが

「今日もありがとな、気をつけて帰れよ」

と言ってくれた。わたしは、すいません、と頭を下げながら荷物をまとめて逃げるように部屋を出た。

 するとなぜか、三人も下へ降りてきた。結局わたしはキーちゃんも入れて四人に笑顔で見送られて早川邸を後にした。


 白い夜道。

 星のない空。

 音の死んだ世界。

 左手だけがまだ熱い。


 わたしは自分の元気な様子を見せて、心配するトモちゃんを早く安心させたい。

 それに、


 ──うん、わかったよ


 トモちゃんの最後の声が優しかったので、わたしの足取りは自然と軽くなった。

※電話でトモちゃんとかわした会話が知りたい方は〈93 心配〉をご覧下さい。


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