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めんどくさい女の子たち  作者: あかなめ
第七章 柊響と早川貴子 その3
186/334

185 スイッチ

登場人物

・柊響(ひびきちゃん)中一女子

・早川貴子きこ(キーちゃん)高三女子、公営アイドル〈北陸パピプペポ〉に内定

・早川智子ちこ(チーちゃん)中三女子、貴子の妹

・式波里砂(りさりさ)中三女子、智子の同級生でバンド仲間

・杉本鈴美(すずみ)中三女子、智子の同級生でバンド仲間

・伯父さん 早川貴子・智子の父の年の離れた兄、七〇歳独身、大腿骨骨折により施設入所

・久保田友恵(トモちゃん)中一女子、柊の同級生で友だち

挿絵(By みてみん)


「とことん嫌われて、もう二度と会えなくなるかと思うと、もう悲しくて……」とわたしはキーちゃんの目を見ることもできずにうつむいたまま言った。

 キーちゃんは真新しい白のテニスシューズを履いている。そのシューズがフローリングとの摩擦でキュッと音を立てる。

「なんでそうなるのかなあ?」とキーちゃんはわたしに尋ねた。その口調はあくまで柔らかかったが、苛立ちが少し混じっているようにも感じられた。

「……〈ムカつく〉って言われたからです」

 わたしがそう言うと、キーちゃんは腕組みをし、ふん、と大きく息を吐いて言った。

「……ああ、あれね。あれはムカついたよ」

 わたしの胸がキュッと苦しくなる。

「なんなの〈仕方ない〉って」

「ごめんなさいッ!」

 キーちゃんに叱責されて、わたしはもう感情が抑えられなくなった。


「もう、そんなに泣きじゃくって、アイドルの引退セレモニーじゃないんだから」

 キーちゃんはそう言って、首にかけたタオルでわたしの涙も鼻水もまとめてゴシゴシと拭いてくれた。

「ねえ、ひびきちゃん」

「……はい」

「もしチーちゃんに〈ムカつく〉って言われたら気にする?」

「いえ、しょっちゅう言われてますし、いちいち気にしてたらキリがありません」

「前にも言ったと思うけどね、あたしは猫をかぶったチーちゃんなの」

「はい、覚えています」

「だからね、あたしも言いたいことはわりとハッキリ言う人間なの」

「……そうなんですか」

 だとすれば、キーちゃんは言いたいことがなさ過ぎるし、心があまりに広すぎる。そんな人を怒らせてしまうわたしって一体……。

「でも言う相手はちゃんと選んでる」とキーちゃんは言った。「あたしは心から信頼できる人にしかハッキリと物は言わないの」


 キーちゃんはわたしをハグしてくれた。その体はわたしよりもずっと暖かかった。

 そしてキーちゃんが腕をほどく。

 物足りないわたしはキーちゃんの唇をじいっと見つめる。

「そういうことはもうしません、って言ってたのは誰だっけ?」とキーちゃんは笑って言った。

「……すいません」

「ほら、あたし運動した後だし、口の中がヌチャヌチャで超臭いからダメだよ」

「……じゃあ、水でゆすげば大丈夫です」

 わたしがそう言うと、キーちゃんはわたしの下唇を指でつまんだ。

「このザコ唇がキミのスイッチ。今ここでキミのスイッチを押すわけにはいかないの」

「……すいません」

「さ、みんな二階で待ってるよ」


「うわっ、カワイイッ!」

 わたしが部屋に入るなりすずみちゃんが叫んだ。

「こいつ女装が趣味なんだってよ」とチーちゃんが言った。

「じゃあ男装が趣味のりさりさとデートすればお似合いだよね」とすずみちゃんがりさりさを見て言った。

「うるせえ。あたしは女っぽい服が嫌いなだけで男装してるわけじゃねえよ」とりさりさが反論する。九歳のりさりさがプリキュアに夢中だったことは黙っておこう。


「それにしても話長かったな」とチーちゃんが言った。「あれか、アイドルのことか?」

「ええ、まあ」

「家族の誰も知らなかったのに、お前だけは知ってたんだってな」

「はい」とわたしは言った。「近いからこそ言いにくいこともあるんですよ」

 あ、その言葉使えそう、とすずみちゃんが呟く。

「だがなあ、伯父さんを使って家族を説得させるなんて、いったい誰の入れ知恵なのかなァ?」とチーちゃんはニヤニヤ笑って、わたしのおでこを指でつつきながら尋ねた。

 わたしはニヤニヤ笑いで返した。どうやら説得は上手くいったようでわたしはホッとした。


「自作の解答です。間違ってても許してくださいね」

 わたしは自分で作った国語、理科、社会の解答をスマホで撮って三人に送る。そして三人の質問を受けながら今日の英語、数学の問題を解く。

 それをちょうど解き終えたとき、トモちゃんから電話がかかってきた。

 ものすごい剣幕だった。

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