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めんどくさい女の子たち  作者: あかなめ
第七章 柊響と早川貴子 その3
185/334

184 おめかし

登場人物

・柊響(ひびきちゃん)中一女子

・早川貴子きこ(キーちゃん)高三女子、公営アイドル〈北陸パピプペポ〉に内定

・早川智子ちこ(チーちゃん)中三女子、貴子の妹

挿絵(By みてみん)


 キーちゃんがいる──。


 今日は火曜日で、いつもだったらチーちゃんは塾の日だからわたしは早川邸にに行く日ではない。そう思ってキーちゃんはバイトを入れなかったのかもしれない。

 もしそうだとすると、わたしはキーちゃんを騙すようなことになりはしないか?

 わたしは行っていいのだろうか?

 ……いや、行かないわけにはいかない。


 嫌な思いをさせるだろう。

 しかしわたしはなるだけ早く謝らなくてはいけない。でないと黴びたミカンのように腐って液状化し小バエがいてしまう。たとえ終わるのだとしても、せめてきれいに終わらせたい。


 わたしは柄にもなくおめかしをした。

 グレーのタイトな長袖Tシャツの上に、白いツルツルの生地全面に花柄がプリントされた、膝上丈の春物のワンピースを着た。下は緑色のニーソックス。わたしの絶対領域なんかに意味があるのかわからないが、今日がキーちゃんに会える最後の日になるかもしれないから、やれることはやっておきたかった。

 ロング丈の白いダウンコートを羽織り、レインブーツを履いてわたしは雪道を早川邸まで歩いた。


「ずいぶん早いな」とチーちゃんが玄関でわたしに言った。

「アハハ、じつは仮病使って早退したんです」とわたしは答えた。

 家の中は暖かく、わたしはコートを脱いだ。

「おいお前、なんだその格好は?」

「いやあ、なんとなく……。ほら、たまに衝動的に女装したくなったりしませんか?」

「しねーな」とチーちゃんは笑った。


 リビングでは当たり前のようにキーちゃんがダンスの練習をしていた。上達しているのかはわからない。しかしそのひたむきに努力する姿こそが貴く感じられた。わたしは目の前の情景を記憶に焼き付けようと凝視した。

「お前……」とチーちゃんがわたしを呼ぶ。自然と足が止まっていたのだ。

 ついにキーちゃんがこららを向く。

 そして近づいてくる。

 タオルを肩にかけた、キーちゃんの紅潮した笑顔──。

 わたしは緊張のあまりその場にぶっ倒れそうだった。


「ひびきちゃん、今日は来る日だったの?」とキーちゃんは屈託なくわたしに尋ねる。

「はい、テスト直後なので」

「テスト終わったらパーッとするんじゃないんだ?」

「ええ、直後にやる解き直しが一番頭に入るんです」

「ふうん、さすがね」

「いえいえ……」

「でさあ、その格好はどうしたの?」

「い、いやあ、別に深い意味は……」

「かわいいよ、すごくかわいい」

「……ありがとうございます」

「まるでアイドルみたい」


「……あのう」

「なに?」

「キーちゃんは今日バイトじゃなかったんですか?」

「ほら、きのう急に呼ばれて出たから、今日はその代休。連チャンでやったら足むくみまくりになるし」

「……あのう」

 わたしはそう口にしたものの、震えてばかりで、言うべき言葉がぜんぜん声にならなかった。 


「チーちゃん、先に行ってて」とキーちゃんが言った。

「……ああ」と待ちくたびれていたチーちゃんは投げやりに答えた。

 わたしの背中にチーちゃんが階段を上っていく音がする。音はだんだん小さくなり、パタンとドアが閉まる音がして、リビングは無音になる。

「さあ、どうしたの?」とキーちゃんが尋ねる。

「ごめんなさい……」

「えっ、なにが?」

「あたし、自分のことばっかりで、キーちゃんが不安に思ってるだなんてこれっぽっちも考えられなくて、あんなに穏やかなキーちゃんをムカつかせちゃったりして……」

「ねえ、泣かないでよ」

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