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めんどくさい女の子たち  作者: あかなめ
第七章 柊響と早川貴子 その3
176/334

175 北陸三県

登場人物

・柊響(ひびきちゃん)中一女子

・早川貴子きこ(キーちゃん)高三女子

挿絵(By みてみん)


 〈富山、石川、福井の三県〉って……。

「富山県オンリーのローカルアイドルじゃないんですか⁉」

 ちょっとネットでかじっただけの知識だが、富山県はアイドル不毛の地だ。だから企画が途中で頓挫しないか、路頭に迷ったりはしないか、という点もわたしは不安だったのだ。しかし活動範囲に、福井はともかく、石川が入るとなると話は別だ。

「ごめんね。あたし、ひびきちゃんみたいに理路整然と説明ができなくて」とキーちゃんは詫びた。「あたしが入るのは北陸三県合同のローカルアイドルなの」


「そうだったんですか。なんだか壮大な話ですね」

 わたしは昨日ネットで存在を知った大所帯の北陸ローカルアイドルを思い浮かべた。

「壮大だなんてぜんぜん。七人しかいないし」

 たしかあっちは二〇人くらいはいた。

「じゃあ、あの北陸のアイドルグループに負けちゃいますね」

「いいや」とキーちゃんは即座に否定した。「あのグループがいたから、今回の企画があがったのよ」


「どういうことですか?」

「あそこは運営が大阪なのよ。くわえて大所帯だからとにかく小回りが利かない。お金もそれなりにかかる。自治体の手足にはなってくれない。それにやっぱり、自治体のゆるいイベントに呼ぶには、ファンの人がね、アレなのよ」

 キーちゃんはそう言って苦笑いした。

「アレなんですねえ」

 わたしはそう言ってペンライトを熱狂的に振り回す真似をした。

「それそれ。たぶん子どもは怖がるし、大人はドン引きして立ち去ってしまう」

「それじゃあ自治体のイベント的にはマイナスですね」

「そう。だから勝てはしないけど、負けることもないのよ。共存共栄なの」


「グループ名は決まってるんですか?」

「うん。〈北陸パピプペポ〉。バカっぽいでしょ」

 キーちゃんはそう言って笑った。

 言われなくてもバカっぽい。

「なんでそんな名前になったんです?」

「自治体はいろいろ大変なのよ」とキーちゃんは言った。「たとえば〈北陸ハッピーズ〉だったらハッピーでない人を排除することになる、とか、〈北陸ミラクルズ〉だったら平凡を愛する人を排除することになる、とか、〈北陸ガールズ〉だったら男性を排除することになる、とか。まあとにかく、自治体っていうのは排除がNGなのよ」

「はあ」


「そこで石川県の課長さんが会議の席でね、『〈北陸パピプペポ〉はどうだ、パピプペポは誰も排除しないぞ』って言ったんだって」

 もう万策が尽きて会議室の空気が澱む中、課長さんが叫んだヤケクソなアイディアに、すっかり煮詰まった頭の固い県職員たちが「もう〈パピプペポ〉でいいよね、早く帰りたいよ」と互いに同意し合う様子が目に浮かぶ。

「なんか無駄に深いですね」


「〈北陸パピプペポ〉のメンバーは富山の二人、石川の三人、福井の二人の計七人。どの県も予算がないから三県でいっしょにやりましょう、ってなったの」

「たしかにぜんぜん壮大ではないですね」

「石川の課長さんは〈スモールスタート〉って言ってたけど、税収が増えるわけもないし、たぶんずっとスモールだと思う」


「石川だけ一人多いんですね」

「〈北陸パピプペポ〉は石川主導なの。並び順も決まってて、真ん中に石川の三人、向かって左に福井の二人、右に富山のわたしたち」

 まあ、地図の並びと同じといえばそうなのだが……。

「石川と富山はしょせん、前田家の本家と分家の関係ですもんね」とわたしは言った。

「前田家ですらない福井よりはマシよ。没落の一途をたどった福井藩松平家なんかよりは」

 その通りだ。

 福井県のキャッチコピーは〈地味にすごい、福井〉で、すでに諦めているのが分かる。いっぽう富山県は〈パノラマ キトキト 富山に来られ〉で、まだ諦めてはいない。ちなみに石川県は〈いしかわ百万石物語〉──これぞ前田家本家の貫禄だ。

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