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めんどくさい女の子たち  作者: あかなめ
第七章 柊響と早川貴子 その3
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173 アイドルを好きな理由

登場人物

・柊響(ひびきちゃん)中一女子

・式波里砂(りさりさ)中三女子

・式波がく 中二男子でりさりさの弟、美術部所属

・早川貴子きこ(キーちゃん)高三女子

挿絵(By みてみん)


 けっきょく何の収穫もなかった。岳くんがプリキュアを好きだということはわたしにとって何の意味もない情報だ。


 幼い頃のわたしはプリキュアを観られなかった。ずっと日陰者だったわたしにとって、プリキュアのキラキラ感はわたしをさらに日陰へ追いやるだけだったからだ。

 プリキュアが平和な日常を守るために戦っていることくらいは知識として知っている。そして彼女らはけっして敵を殺さず、敵の改心を試みることも知っている。自分たちはけっして敵に改心されないくせに。


 物心ついたときから周囲に違和感を抱き続けていたわたしは、わたし以外の人にとってのかけがえのない平和な世界から、あっちへ行け、とつねに追い立てられるような感覚を覚えていた。だから平和な世界を破壊すべくアンパンマンへ果敢に挑むばいきんまんはずっとわたしのヒーローだった。


 善と悪が対立するとき、幼いわたしはいつも悪のほうを応援していた。幼いわたしには、正義の側の怒りにまかせた横暴さが恐ろしかったのだ。


 胃は相変わらず荒れていた。

 わたしは帰宅してレトルトの粥だけを口にし、風呂に入る。

 明日は早川邸。キーちゃんが家にいるかもしれない。


 湯船は心を緩めてくれる。

 わたしは湯の中で伸び放題の腋毛をつまみ、その存在を確かめる。

 三日前のあの部屋で、キーちゃんはわたしの腋毛を〈芸術的に繊細〉だと褒めてくれた。

 キーちゃんに褒めてもらえるのは嬉しい。しかし腋毛を見られるのは恥ずかしい。

 剃ってしまおうか。そうすればわたしは恥ずかしくなくなる。しかしキーちゃんは悲しむかもしれない。

 わたしが恥ずかしくてキーちゃんが喜ぶのと、わたしが恥ずかしくなくてキーちゃんが悲しむのと、どちらを選ぶべきだろう?

 あるいは、キーちゃんはわたしの恥ずかしがる様子が面白かったのかもしれない。プリキュアに夢中だったことをバラされた今日のりさりさのように。

 どうせ夏には剃るのだ。わたしが恥ずかしがることでキーちゃんが喜んでくれるのなら、わたしは剃らないほうを選ぼう。


 わたしは父のお下がりの古い MacBook Pro を開いて〈アイドルを好きな理由〉と検索する。

 ポチ、ポチ、ポチ……。

 が、探しても探しても、有益な情報はまったくなかった。ネットに挙がっている理由はだいたい次の三つに集約できた。


①パフォーマンスがキラキラしているから憧れる

 これはわかるが、他ならぬアイドルに夢中になる理由とはならない。わたしはあいみょんのものすごいパフォーマンスにどうしようもなくキラキラを覚えるが、人間味にあふれたあいみょんは断じて北朝鮮的なアイドルではない。


②一生懸命頑張っているから尽くしたい

 誰だって一生懸命頑張っているじゃないか。他ならぬ推しのアイドルだけを推す理由として、これはまったく答えになっていない。


③メンバーの仲が良さそうで自分も友だちになったように感じる

 みんなライバル同士だよ。ドロドロしているに決まってるじゃないか。カメラの前だから和気あいあいを演じているだけだよ。ちょっと頭が単純すぎやしないか。


 わたしは Mac を閉じた。

 〈アイドルを好きな理由〉など初めからなかったのだ。

 あるのは〈憧れ、尽くし、友だちになりたい〉という一方的な我欲だけだ。そして、その我欲をお手軽に処理するフォーマットこそが〈アイドル〉なのだ。

 なんと恐ろしい。


 妄想的な憧れは些細なことで幻滅へ、そして怒りへと変わる。

 尽くして報われなければそれは恨みへと転化する。

 異性からの友だち感情は容易に恋愛感情へ変化し、アイドルの恋愛沙汰が表に出たりしたならば、彼らの恋愛感情は暴力的な懲罰感情へと裏返る。

 韓国人のアイドルたちが際限なく憎悪を受けて次から次へと命を絶つのもよくわかる。


 わたしは頭がおかしいのだろうか?

 もう何も考えたくない。

 わたしは階下に降り、冷蔵庫の日本酒をこっそり飲んだ。

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