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めんどくさい女の子たち  作者: あかなめ
第七章 柊響と早川貴子 その3
168/334

167 アイドル

登場人物

・柊響(ひびきちゃん)中一女子

・早川貴子きこ(キーちゃん)高三女子で早川智子の姉

挿絵(By みてみん)


「アイドルって……、キーちゃん、そういうのを目指してたんですか?」

 寝耳に水もいいとこだ。わたしはてっきり、キーちゃんは本格派シンガーを目指しているのだとばかり思っていたからだ。

 わたしには内気なタイプのキーちゃんが、フリフリの衣装を着てダンスしながら笑顔を振りまく姿がどうしても想像できなかった。


「目指してないし、考えたこともなかったよ」とキーちゃんは言った。

「そうですよね」とわたしは言った。「でもなんで?」

「それはまた後日ね。ほら、もう行かないと」

 壁掛け時計を見るともう三分前だった。

「はい」とわたしは答えた。


 わたしにとってアイドルの映像は、国会中継と同じくらい意味のないものだった。

 帰り道、わたしはなぜアイドルにこれほどまで興味がないのだろうかと考えた。

 男性アイドルに興味がないのは仕方がない。

 でも、なんで女性アイドルにも、わたしはさっぱり、これっぽっちも興味がないのか?


 わたしは〈なんとか48〉とか〈なんとか46〉のような、似たような女の子をひたすらコピペして作ったような集団を思い浮かべる。

 今のアイドルはとにかく集団だ。みんなが同じ衣装を着て、みんながほとんど同じダンスをし、せっかく大人数いるのにみんなが同じ音程で歌う。

 それがわたしには北朝鮮のマスゲームにしか見えずに、ただただ気持ちが悪くなる。


 わたしが知っているアイドルの歌は、街を歩いているときなどに否応なく目に入り耳に入る断片だけだ。だから世の中にはもっとマシなものもあるのかもしれない。しかし断片に限って言えば、音楽はただの耳障りな騒音で、歌詞は過度に扇情的、かつソロパートの猫撫で声は下品としか言いようがない。


 なぜこれほどまでにアイドルは汚らわしいのか?

 もちろん彼女たち自身が汚らわしいわけではないだろう。この汚らわしさはフォーマットだ。彼女たちはあらかじめ定められたフォーマットに合わせて、均質な汚らわしさを演じているだけだ。


 わたしはアイドルたちの北朝鮮的笑顔の上に、アイドルなんて金さえ払えば本心からやさしくしてくれるとでも思っている、幼稚で汚いキモオタ男という身の毛もよだつおぞましい存在を認めてしまうのだ。だからわたしは女性アイドルが生理的にダメなのだ。


 しかしわたしは松田聖子の歌が好きだ。

 彼女はわたしにとってアイドルではない。若い頃の写真を見てもどこがかわいいのかさっぱり分からない。

 彼女は歌い手だ。

 年端もいかない彼女は、たった一人でステージに立ち、艶やかな歌声で美しい歌を歌ったのだろう。

 一人だからいいのだ。

 彼女はジェシー・ノーマンほどには上手くない。しかしその歌声はジェシー・ノーマンよりもはるかに心に染み入ってくる。

 しかし、もし松田聖子のクローンが46人ずらりとならんで、みな同じ音程で歌を歌ったら──それはもう悪夢でしかない。


 松田聖子と同時代のアイドルは基本、一人でステージに立つ。甲子園に一人立つあいみょんのように。

 きっとみんな、とてつもなく遠い存在だったのだろう。

 握手なんてとんでもない。

 金さえ払えばやさしくしてもらえるなんて考える男がいたらきっと、おっかない親衛隊からなぶり殺しにされていただろう。


 幼稚で汚いキモオタ男はことごとくなぶり殺しに遭って地球上から消え去るべきなのだ。

 キーちゃんには、こんな連中におもねることだけはしてほしくない。

 キモオタ男の精子と手垢にまみれた穢らわしい手と握手を強いられるキーちゃんを想像して、わたしは悲しさのあまり泣いてしまった。

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