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めんどくさい女の子たち  作者: あかなめ
第六章 久保田友恵と稲垣良美
163/334

162 シスコン

登場人物

・久保田友恵(トモちゃん)中一女子

・柊響(ひびきちゃん)久保田友恵の友だちで同級生

・式波里砂(りさりさ)(クール担当、ベース)

・式波がく 中二男子でりさりさの弟、美術部所属

・稲垣良美(ガッちゃん)久保田友恵の同級生でクリスチャン

・児玉くん 久保田友恵の同級生で稲垣良美の片想い相手

・畠中祐生ゆうき(ハタケ)久保田友恵のとなりの席のチャラい水泳部員

・増田敏生としき(マスオ)久保田友恵の同級生で硬派の剣道部員(肋骨骨折中)

・安倍あきら(あーちゃん)久保田友恵の同級生で陽キャの美術部員

・川上風美ふみ(ふみちゃん)久保田友恵の同級生で陰キャの美術部員

挿絵(By みてみん)


「岳くんはね、こう言ったんだよ。『勉強する姉さんの姿が美しいと思ったからです』って」

「えーっ!」

「『シスコンだと言われてもかまいません。姉さんが美しいことを否定する気は毛頭ないです』っても言ってたんだ」

「強烈だね……」

 でも、それって〈ヌメヌメ〉なんじゃ……。


「でね、ものの三〇分でスケッチができて、見せてもらったんだけど、それがホントに清らかでね、温かみがあって、ぜんぜんクールじゃなくて、でも描かれているのは確かにりさりさだったんだ」

 式波さんといえば、思い浮かぶのはあの3−Cの教室でわたしが食らった〈ほとんど壁ドン〉だ。そんなクールなイケメン女子の式波さんはしかし、ひびきちゃんへ歌をプレゼントすることを思いつき、尽力した心優しい人なのだ。


「なんとも不思議な体験だったよ」

「ヌメヌメじゃなかったんだね」

「ぜんぜん。それに、りさりさも弟のシスコン発言の時は『死ねバカクソ』とか言ってたんだけど、スケッチができてからは『好きにしろバカクソ』としか言わなくなったんだよ」

「〈死ね〉が消えたんだね、アハハ」


「で、あたしは気づいたら岳くんとフツーに話してたんだ」

「そうなんだ」

「あたしにとって岳くんは、男子である前に一人の絵描きさんだったんだ。だからフツーに話せたんだと思う。で、思ったんだ。これはあたしの〈オマケ〉と〈本体〉の話と同じだな、って」

「じゃあマスオも、男子である前に一人の扇形の面積が知りたかった人だったんだね」

「そういうことだね」

 ひびきちゃんはサラッとそう言った。

「そしてあたしもね、〈オマケ〉である以前に、一人の扇形の面積を教えたいと思う人だったんだよ」


 日中も雪は降り続いた。積雪は三〇センチくらいだろうか。警報が出るほどではないが、明日の朝も雪かきは免れ得ない。

 そして放課後。

 けっこうな雪だし、今日はどうしようか、とハタケたちと話していたのだが、

「少しだけでいいから、お願い」

と訴えるふみちゃんの熱意に押されて、少しだけ読み会をすることになった。


 ふみちゃんがアイディアを話し、あーちゃんが激しく同意し、ガッちゃんが歴史考証の視点から補足と修正を加える。ハタケとわたしはそれを傍観し、マスオはひとり扇形の面積を求める。ひびきちゃんはとっくに三年生の元へ行ってここにはいない。

 と、その時だ。

 いつもは終業後一目散に部活へ行く児玉くんが、今日はふらりとわたしたちのところへやってきたのだ。


「ねえ、みんな集まって何してるの?」と児玉くんが尋ねる。

「聖書を読んでるんだよ」とあーちゃんが答えた。「けっこう面白いんだよ」

 そんなあーちゃんの呼びかけに児玉くんは「へえ」としか答えなかった。

 この〈へえ〉は関心を持った証拠なのか、それとも無関心の相づちなのか、あるいは拒絶だったりするのか──。

 わたしはガッちゃんのほうを見た。ガッちゃんはもう、今すぐこの場を逃げ去りたいと言わんばかりに、うつむいてカチンコチンになっている。


「お前、部活は?」とマスオが児玉くんに尋ねる。

「今日はなし。大雪になるから早く帰れって」

「じゃあ一緒に帰ろーぜ。部活バカのお前と帰れるなんて滅多にねーからなー」とハタケが言った。「だからちょっとだけ待っててよ。マスオと宿題でもやってるといいんじゃねー」

 しかし児玉くんは「宿題はいいや」と言った。


 えっ?

 児玉くん、帰っちゃうのかな?

 ねえガッちゃん、帰っちゃうよ!

 なにもできずに固まってるの?


 だが児玉くんは帰らなかった。そして、とても意外なことを口にした。

「聖書が面白いって、ホントなの?」

 うん、これは明らかに関心を持っている人の発言だ。わたしは心の中でガッツポーズをして飛び跳ねた。

「マスオ以外はここにいるみんなが面白いと思ってるよ」とわたしは言った。この瞬間のためにわたしはがんばってきたのだ。ガッちゃんが言うべきことを言うまでは、ぜったいに児玉くんを帰してはいけない。

「へえ」

 大丈夫。児玉くんの〈へえ〉は関心があることの証だ。


「児玉も読んでみなよ」とあーちゃんが言った。

「でも難しくない?」

「難しいよ、チョー難しい」とあーちゃんが答えた。「でもね、稲垣さんがめちゃくちゃ詳しいから大丈夫だよ」

「稲垣さんが?」

 児玉くんはそう口にしてガッちゃんのほうを見やった。

 窮鼠(きゅうそ)なんとやら。追い詰められたガッちゃんは、恐る恐る顔を上げ、児玉くんをじっと見上げた。

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