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めんどくさい女の子たち  作者: あかなめ
第六章 久保田友恵と稲垣良美
161/334

160 潮時

登場人物

・久保田友恵(トモちゃん)中一女子

・稲垣良美(ガッちゃん)久保田友恵の同級生でクリスチャン

・柊響(ひびきちゃん)久保田友恵の友だちで同級生

・畠中祐生ゆうき(ハタケ)久保田友恵のとなりの席のチャラい水泳部員

・増田敏生としき(マスオ)久保田友恵の同級生で硬派の剣道部員(肋骨骨折中)

・安倍あきら(あーちゃん)久保田友恵の同級生で陽キャの美術部員

・川上風美ふみ(ふみちゃん)久保田友恵の同級生で陰キャの美術部員

挿絵(By みてみん)


 ガッちゃんの自称〈こういうことを言いたいんじゃないのかな〉はどれも鋭くかつ深く、わたしとハタケはみずからの読解の浅さを思い知らされた。それでわたしたちはサムエル記をもう一度読み直している。〈師匠〉のハタケはすっかり形無しだが、当人はまるで気にしていない。

 そして、あーちゃんとふみちゃんのBL話にガッちゃんがぜんぜんイヤな顔をせずつきあうのは意外だった。むしろ楽しんでいる節すらあった。イスラエル人とペリシテ人の混血児の名前はあーちゃんこと(あきら)の語尾を変えてアキーレに決定した。アキーレ少年とサムエル少年は幾多の困難を乗り越えて無二の親友となり、当時の風習に従って熱いキスを交わす予定。


 そんなわたしたちにはお構いなく、ひびきちゃんとマスオは勉強に精を出している。初めは緊張していたマスオだったが、今ではいろいろと質問を投げている。教え方がうまいのだろう。わたしはマスオがうらやましくて、ちょっと嫉妬してしまう。


 やがて下校時間も近くなり、教室にはわたしたちだけとなった。

「ねえガッちゃん」とひびきちゃんが声をかけた。「教室には誰もいないし、もういいんじゃないのかな?」

「〈いい〉って、何が?」とあーちゃんが尋ねる。

「……それもそうよね」とガッちゃんが答える。


「安部さん、川上さん」

「稲垣さん、改まっちゃってどうしたの?」とあーちゃんが尋ねる。

 みんながガッちゃんをじーっと見守る。

 六人の視線を一身に受け、ガッちゃんは口を半開きにしたまま固まってしまった。そして肩の力がすっと抜け、諦めたようにため息をつく。

「……ダメね」

 わたしはガッちゃんの肩をポンポンと叩いた。

「ひびきちゃん()でもうまくいったじゃない」

「……うん」とガッちゃんはゆっくりうなずいた。


「安部さん、川上さん、実はあたしね、……クリスチャンなんだ」

 うつむいたまま小声でそう言うガッちゃんは、上目遣いで二人の様子を恐る恐る窺った。

「……なーんだ、そうだったんだ」とあーちゃんが言った。

「……なんか、そんな気は、してたよ」とふみちゃんが言った。「いくら図書部といっても、読みがちょっと、深すぎたし」

 そんな風にあーちゃんとふみちゃんはガッちゃんの信仰のことをすんなりと受け入れてくれた。

 するとガッちゃんの表情からは緊張が消え、柔らかい微笑みが浮かび上がった。


「でもね、他の人には言いふらさないでほしいんだ」とわたしは二人に頼んだ。

「なんで?」とあーちゃんが尋ねる。「なんで秘密にしてるの?」

「お前が言うかー⁉」と、わたしは作り笑顔であーちゃんに突っ込んだ。

「どういうこと⁉」と気分屋のあーちゃんが少しムッとする。

「〈カルトだー〉〈キモいよー〉とか言われるからに決まってるじゃない」

 するとあーちゃんは、あっ、とようやく気がついた。

 続けてガッちゃんが口を開く。

「それにね、多くの日本人の目には、信仰を持っていること自体が不気味に映るのよ」


「BLも同じだから」とふみちゃんが言った。「気持ち悪いって、思う人のほうが、多いんだから。だからあーちゃんには、……おおっぴらに、言わないでほしい」

「ふみちゃん……」

「お願い」

 ふみちゃんは大きな体を小さく小さく縮こめてあーちゃんに懇願した。

 崇拝するふみちゃんにそんな態度をとられて、あーちゃんはすごく狼狽している。

「……ごめん。あたしはひどいことをしてたんだね。あたしみたいな奴のせいで、みんな苦労してたんだね」とあーちゃんは申し訳なさそうに言った。

「悪気がないのはね、知ってるよ」とふみちゃんが言う。

「わかった。ふみちゃんのことも、稲垣さんのことも、もうなんにも言わないから」

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