表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
めんどくさい女の子たち  作者: あかなめ
第六章 久保田友恵と稲垣良美
160/334

159 数学

登場人物

・久保田友恵(トモちゃん)中一女子

・柊響(ひびきちゃん)久保田友恵の友だちで同級生

・増田敏生としき(マスオ)久保田友恵の同級生で硬派の剣道部員(肋骨骨折中)

・安倍あきら(あーちゃん)久保田友恵の同級生で陽キャの美術部員

・川上風美ふみ(ふみちゃん)久保田友恵の同級生で陰キャの美術部員

・稲垣良美(ガッちゃん)久保田友恵の同級生でクリスチャン

挿絵(By みてみん)


 放課後。

「トモちゃん、一緒に帰ろう」とひびきちゃんが声をかけてきた。

「あれ、三年生のところへは行かないの?」

 今日と明日は三年生の校内学力調査だ。前回はヘロヘロになって学校を早退したあと、ろくに休みもせずに三年生の家へ向かっていた。

「捨てて待つ」とひびきちゃんは答えた。

「そういやそんなこと言ってたね」


「だから今日は一緒に帰ろう」

「いや、悪いんだけど」とわたしは言った。「放課後、聖書を読んでるんだ。結構な人数で」

「そんなことをしてたんだ」とひびきちゃんは驚いた。「なんでそんなことをしてるの?」

 わたしは声をひそめて「ちょっとここでは言えないんだけど」と言った。

「やっぱりトモちゃんも、あの矛盾だらけな話をすんなり信じることができたりするの?」と、ひびきちゃんは少し悲しそうに言った。

「いや、ウチらが読んでるのは旧約だし、あの神さまだって疫病神だと思ってるし」


「〈結構な人数〉って、何人いるの?」

「あたしとハタケとマスオと、あーちゃんとふみちゃんと、ガッちゃん。だから六人」

「そんなに!」

「ここまでの道のりは険しかったんだよ。あとね」

 ガッちゃんがクリスチャンだってことは内緒だよ、とわたしはひびきちゃんの耳元で囁いた。

「うん、わかった」

「ひびきちゃんもどう?」

「でもあたし、聖書なんて興味ないしなあ」

「じゃあさあ、マスオに勉強教えてやってよ。マスオは一緒に勉強してるだけだから」


 席へ着くなりふみちゃんが口を開く。

「サムエルは、光り輝いて、かわいすぎるから、相手はちょっと年上の、ちょっと陰のある、ちょっとやんちゃな子がいいかな、って思ったんだけど、……安直かな?」

 そう、ふみちゃんがあーちゃんへ不安げに尋ねる。

「いいよ、ふみちゃん!」とあーちゃんは即答した。

 するとふみちゃんはホッとした顔を見せて「陰のいい案、なんか、思いつく?」と尋ねた。

 うーん、とあーちゃんが考えていると、ガッちゃんが「ペリシテ人の血が半分混じってる、ってのはどうかな?」と言った。


「ペリシテ人?」とあーちゃんが尋ねた。

「続きをちょっとだけ読んだらね、どうやらイスラエル人は獰猛なペリシテ人と戦争をしてるらしいんだ。だから、敵との混血児だったら、ちょっと陰っぽくなんないかな?」

 ふみちゃんがすかさず反応する。

「やんちゃさは、ペリシテ人の獰猛な血のせい。そして、半分同胞のペリシテ人が倒されることへ、ひそかに心を痛め、荒れる。そんな彼に寄り添い、癒やすサムエル……」

「ふみちゃん、すごい! そして稲垣さんも!」


「楽しそうだね」とひびきちゃんが前に座るマスオに声をかける。

「……そうですね」とマスオが答える。なんか、すごく緊張してる。

「増田くんは、聖書は苦手なの?」

「あ、……はい」

「あたしも。だから一緒に勉強しよう」

 そう言ってひびきちゃんはスマホを取り出し、ノートに問題を解き始めた。画面に映るのは今日の試験問題なんだろう。

「わからないところがあったら言って。もしかしたらわかるかもしんないから」


 わたしはひびきちゃんに違和感を感じた。違和感の正体がなんなのか初めはわからなかったが、少ししてわかった。それは、ひびきちゃんが男子とサシで、リラックスして話しているのを初めて目にしたからだった。


「あの、柊さん、この問題なんスけど……」とマスオがひびきちゃんに質問をした。


挿絵(By みてみん)


「斜線部分の面積を求める問題なんスけど、それの解答がこれなんです……」


挿絵(By みてみん)


「こういうのってオレ、ひらめかないんスけど、ひらめかない人には解けないんスか?」

「別解はないのかな?」とひびきちゃんが尋ねた。

「いや、これだけっス」

「そりゃあひどいね。こんなの数学じゃなくてただのとんちだよ。ひどい」

「そうっスか」

「だってとんち一本だとこの形しか解けないじゃない。こういうのはね、線で区切られた領域ごとに番号を振るといいよ。こんな風に。こうやればどんな形の問題でも対応できるから」


挿絵(By みてみん)


「すると、

 ① + ② = 5 x 5 x π x (1/2)

 ① + ① + ② + ③ = 10 x 10 x π x (1/4)

 って連立方程式ができるでしょ。あとはここから斜線部分の ② + ③ を求めるの」

「はい」

「で、これ、①を消去すると、② = ③って結果が出てくるんだ」

「はい」

「連立でできるのはこの ① + ② = ① + ③ = 25π/2 まで。あとはなんとかして②か③を求めるしかない。で、あたしたちが使える面積の公式は丸、三角、四角だけ。そこでこんな線を引いてみる」


挿絵(By みてみん)


「なるほど!」

「こんな風に草をかき分けながら一歩一歩答えまで進んでいくのが数学ってもんじゃないのかな?」

「そうっスね!」

※ ★の評価や〈いいね〉、感想をひと言いただけると励みになります。よろしければご協力お願いします。

※ なろう非会員の方は X(twitter): https://x.com/super_akaname からどうぞお気軽に。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
  • ★の評価や〈いいね〉、感想をひと言いただけると励みになります。よろしければご協力お願いします。
  • なろう非会員の方は X(twitter)の固定ツイート へ〈いいね〉やコメントしていただけると嬉しいです。
小説家になろう 勝手にランキング
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ