16 告白を断る練習
登場人物
・柊響(ひびきちゃん)中一女子
・久保田友恵(トモちゃん)柊響の同級生で友だち
・児玉くん 柊響の同級生で柊響に告白してきた
「まずは、こんなわたしに告白してくれてありがとう、と感謝を述べること」とわたしは言った。
「はい」とひびきちゃんは真剣に返事をした。
「つぎに、好きな人はいない、と言って、嫉妬心や疑心暗鬼の芽をしっかり消すこと」
「はい」
「あと、男子はプライドでできているから、欠点をあげてはダメ。児玉くんはすばらしい人だ、とひたすら持ち上げること」
「はい」
「さいごに、ごめんなさい、あたしにはまだ恋愛感情というものがわからないの、と言って断ること」
「はい先生」とひびきちゃんは手を挙げた。
「なんだね柊くん」と、わたしはふざけて偉そーな先生口調で言った。
「もし、諦められないよ、ってすがられたら、あたしはどうすればいいですか?」
「いい質問だ。そんなときは、ウソ泣きして、ごめんなさい!って叫んでその場を走り去るんだね」
「先生、あたしにそんなことができる女子力があるとでも思うのですか?」
「柊くん、誰でも最初はできないんだよ。だから練習するんだ。今から」
「えー、練習すんのー? やだよー、ハズカシー」
わたしたちは土手に降りて練習した。
わたしが児玉くん役。
しかし──。
「僕は君を諦められないよ」
「ごめんなさい! ……んぷぷっ、ぷはーっ、ギャハハハー!」
「ちょっとひびきちゃん、まじめにやろうよ」
「だって、だって、ひーっ、死んじゃう!」
練習はうまくいかなかった。
「もう、トモちゃんが児玉くんだったらよかったのに。あたし即OK出しちゃうよ」
「ひびきちゃん、それ、〈好き〉の意味が違うよ」
はぁ、とひびきちゃんは大きくため息をついた。
「あーもう、やだやだ」
そう愚痴ると、ひびきちゃんは地面にごろんと仰向けになった。
あーあ、そんなことしたら背中が枯れ草だらけになっちゃうよ。
ほんと自由人。
わたしはひびきちゃんのそばにしゃがんだ。
「トモちゃん」
「なあに」
「男の人を好きになるとき、どんな感じがするの?」
「ひびきちゃん、ほんとに人を好きになったことないの?」
「父さんのことは好きだよ」
「それも〈好き〉の意味が違う」
いまわたしに好きな人はいない。
でも、もし児玉くんがわたしに告白してきたら……。
そう想像するだけで──
「子宮が疼くの」
「え? それって生理痛みたいな?」
ひびきちゃんが真顔で尋ねる。
「ちがうちがう! なんかこう、ムラムラ、ってするのよ」
あー、わたし何言ってるんだろ。
まるでわたしが発情期のサルみたいじゃないか。
「ふーん」
それにひびきちゃんも何冷静に聞いてるんだろ。
ちょっとムカつく。
「たしかに父さんにはムラムラしないなあ」
もう、まだ言ってるよ。
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