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めんどくさい女の子たち  作者: あかなめ
第六章 久保田友恵と稲垣良美
155/334

154 びびり担当

登場人物

・久保田友恵(トモちゃん)中一女子

・稲垣良美(ガッちゃん)久保田友恵の同級生でクリスチャン

・柊響(ひびきちゃん)久保田友恵の友だちで同級生

・堀井千代子(ホリー)(びびり担当、ギター)

挿絵(By みてみん)


 わたしは思った──〈ちがうよ〉だなんて言って、この人はまだ自分の注いだ努力を否定しようとするのだろうか。どこまで自分を否定すれば気が済むのだろうか? これではガッちゃんが飲酒運転で人をひき殺したの犯人を思い浮かべたのももっともな気がする。

 しかしそうではなかった。


「みんなこんなに一生懸命勉強してるのに、合格させてあげられなかったらどうしよう、って、もう不安で不安で、けっこう必死に教えてたんだ。だから〈合格してほしい〉なんて呑気な気分じゃなくて、〈合格させないとヤバい〉っていう切羽詰まった気持ちだったんだ」

 なあんだ、とわたしはほっとした。

 一方的に押しつぶされるという感覚はもう過去の話になっていて、自分本体が一生懸命に教えていたことに、ひびきちゃんはやっと気づけたのだ。


「じゃあ三年生の人たちは強力な〈びびり担当〉がいつもそばにいて安心だね」とわたしは言った。

 三年生のバンド〈デッド・ムーン〉にはメンバー各自に担当があり、なかでも一番わけがわからなかったのが堀井さんの〈びびり担当〉だった。話によると、堀井さんは本番でとにかくびびりまくるので、みんなは堀井さんに〈大丈夫だよ、安心しな〉と声をかけるのだが、そう口にしているうちにそれが自己暗示になって各々の緊張が解けてくるのだという。

「なるほど、それもそうだね」とひびきちゃんは笑った。


 今日のひびきちゃんはゲロを吐いて以降でいちばん穏やかだった。なので、わたしは思い切って尋ねてみた。

「ねえ」

「ん?」

「あのさ、あの日、ガッちゃんが口を塞いできたでしょ」

「ああ……」とひびきちゃんの声が途切れる。

 ……やっぱり話すのはやめておいたほうがよかったのかな。

「いや、なんでもない、なんでもない」とわたしは話を打ち切った。

「あれはね、もう、いいんだ」とひびきちゃんは言った。

「悪かったね。イヤなこと思い出させちゃって」

「〈一番信頼できる人〉なんて、よく考えたら、ホントはいなかったんだ」


 思い切ったついでに、わたしはもう一回思い切って尋ねてみた。

「あたしのことは、信頼できないのかな?」

「とんでもない」とひびきちゃんは言った。「トモちゃんはあたしにとって信頼できる友だちだよ。でもね、……ばいきんまんじゃないんだ」

 そう言ってひびきちゃんは言葉を切った。

 しかしあの日のような深刻な顔はぜんぜんしていない。ずっと穏やかそのものだ。そんなひびきちゃんの心の内が、飲酒運転で人をひき殺した犯人と同じだとはわたしには思えない。


「ガッちゃんに口を塞がれたとき、びっくりした?」とわたしは尋ねた。

「びっくりしたよ」とひびきちゃんは答えた。

「突然だったもんね」

「いや、これが〈神の力〉ってやつなのか、ってびっくりしたんだ」

「えっ? ひびきちゃんって、神さまを信じてるの?」

「まさか。ぜーんぜん」とひびきちゃんは笑って言った。「でもね、あのタイミングで人の口を塞ぐなんて、神がかってるな、とは本気で思った。ちょっと怖くなったもん」

 そうだったんだ。

 ひびきちゃんとガッちゃんは、べつに仲良しなわけではないし、そんなに話もしないけれど、なにかとても深いところで通じ合っているような気がしてならない。もちろんわたしにはそういう感覚はない。


「もし口を塞いでもらえなかったら、あたしは海に毒をぶちまけて、あの場を台無しにしてたかもしれなかったんだ」

「うん、もうその話はやめようよ」

「なにも訊かないでくれるんだね」

「なんにも訊かないよ」

「トモちゃんはやさしいね」

「でも、もし話したくなったら、ちゃんと聞くからね」

「ありがとう」

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