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めんどくさい女の子たち  作者: あかなめ
第六章 久保田友恵と稲垣良美
153/334

152 BL

登場人物

・久保田友恵(トモちゃん)中一女子

・畠中祐生ゆうき(ハタケ)久保田友恵のとなりの席のチャラい水泳部員

・増田敏生としき(マスオ)久保田友恵の同級生で硬派の剣道部員(肋骨骨折中)

・安倍あきら(あーちゃん)久保田友恵の同級生で陽キャの美術部員

・川上風美ふみ(ふみちゃん)久保田友恵の同級生で陰キャの美術部員

挿絵(By みてみん)


 放課後、いつものようにハタケ、マスオ、わたしの三人で机をくっつけていると、あーちゃんが一人で近づいてきてわたしたちに話しかけた。

「ねえ、聖書って面白いの?」

 あーちゃん、ふみちゃんに何か吹き込まれたのかな?

 それとも単に、仲直りしたい気分になったから仲直りしにきた、ってやつなのかな?

 わたしがあーちゃんの表情を愛想笑いしながら窺っていると、ハタケが、

「オレたち、まだ〈サムエル記〉ってのしか読んでないけど、これはサイコーに面白かった」

と熱を込めて言った。


「〈ヨブ記〉は?」とわたしはハタケに尋ねた。

「ちょっと読んでみたけど、正直ムリかもしんない」

「あたしも。あれはきっと超辛口のワインなんだよ。ウチらお子ちゃまにはちょっと早すぎたんだよね」

「ねえ」とあーちゃんは言った。「なんで聖書なんか読んでるの?」

「面白いから」とわたしは答えた。

「読んでみたらスゲー面白かったから」とハタケが答えた。「安部も読んでみろよ」


 あーちゃんは苦笑いしながらわたしを見る。

 やっぱり〈聖書〉っていうと、あのイメージが強いのかな?

 それとも単に、本を読むのが嫌いなのかな?

 わたしも宗教にハマって思考停止な人は気持ち悪いし、読書も嫌いだった。でもそれはただの食わず嫌いだった。読まないのは損だ。とくにあーちゃんのような空っぽの人にとっては。


「ハブられてるんだって?」とわたしはあーちゃんに尋ねた。

 あーちゃんは苦笑いしたまま、へへっ、と言葉を濁した。

「ハタケとマスオはハブられ女子の味方だよ。だから安心していい……かどうかは知らないけど」

 おい、ひでーな、と二人が冗談半分で文句を言う。

「でも、あたしは二人といて、とても心地がいいんだ。だからあーちゃんもどうかな?」


「トモちゃん、ホントに怒ってないの?」とあーちゃんがわたしに尋ねる。

「うん」

「だって〈トモちゃんがカルトに洗脳されてるよー〉って言いふらしたの、あたしなんだよ」

「まあ、聖書を見たら、誰だってアレを思い浮かべるよね」

「ホントに怒ってないの? なんか企んでない?」

「うん。だって、もしあたしがあーちゃんを陥れたら、あたし、ふみちゃんから殺されちゃうよ。でしょ?」

 わたしがそう言うと、あーちゃんはすっごく喜んだ。


「ふみちゃん、なんだか、あーちゃんに背中を押してもらいたがってる雰囲気だったよ」とわたしは言った。「なんか心当たりある?」

「あるもなにも、ふみちゃんはね、すごいんだよ!」とあーちゃんが語気を強めていった。

「何がすごいの?」

「もうね、骨の髄まで腐り切ってるのッ!」

 あーちゃんが目を輝かせてふみちゃんを罵倒する。わたしにはわけがわからなかった。

「そんなことないよ。ふみちゃんはとっても心の優しい人だと思うよ」とわたしは反論した。

 すると扇形の面積を求めていたマスオが顔も上げずに「BLだろ?」と呟いた。


 剣道ひとすじ──ひとすじすぎて肋骨を疲労骨折したほどの超硬派男・マスオが、いま確かに〈BL〉という言葉を発した。

「カプがどーのこーのとか言ってんだろ?」とマスオは言った。

「そう! マスオも好きなんだ! 意外!」

「好きなわけねーだろ」とマスオは初めて顔を上げた。「ウチさあ、姉キと母ちゃんが腐ってんだよ」

「なんてステキな家庭なの!」

「冗談じゃねえ。あいつら、男が二人以上いたらなんでもカプにしちまう。ビョーキだよ」

「それって、生モノにも手を出してるってこと?」

「外じゃ知らねーけど、家ん中じゃそんな話ばっかだ。もう最悪」

 マスオはそう言い捨てて再び扇形の面積を求め始めた。


 わたしはマスオがなにを言っているのか分からなかった。

 あーちゃんはわたしに尋ねた。

「トモちゃんはBL読んだりしないの?」

「あたしは、アハハ……」

 いやー、男同士だったら女同士のほうがまだいいかな。ハタケとマスオのキスとかまったくこれっぽっちも見たくないし。


「ふみちゃんはね、さらなる高みを目指してるの。〈トーマの心臓〉とか〈ポーの一族〉みたいなリリカルでストイックなやつを自分でも創作してみたいって思ってるんだよ」

「はあ」とわたしは生返事をした。「ハタケ、読んだことある?」

「ない。名前は知ってるけど」

「だからネタがほしいの。ねえ、聖書にBLってないの?」とあーちゃんは尋ねる。

「ないよそんなの」とわたしは即答した。

 しかしハタケはすぐにわたしの発言を打ち消し、「ダビデとヨナタンだなー」と言った。


「BLあるの?」とあーちゃんが尋ねる。

「うん。ダビデとメフィボシェトを、メフィボシェトの視点から書くのもいいかもねー。青年期のサムエルの描写が一切ないから、そこを創作するのもいいと思うよー」

「ハタケ……」

 さすが読書家だ。読解力がわたしとはぜんぜん違う。


「……って思ったんだけど、トモちゃん、どうかなー?」

「うんうん、言われてみるとそうだよ。あたしはウソ言ってたよ」

「じゃあBLあるんだね!」とあーちゃんは嬉しそうに言った。

 ハタケはさらに話を続けた。

「あとね、この時代、男色は死罪だから、そういうことはしないんだけど……」

「けど?」とあーちゃんが言う。

「みんなね、握手をするように熱いキスをするんだよー。口と口で、ぶちゅー、って」

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