151 崇拝者
登場人物
・久保田友恵(トモちゃん)中一女子
・安倍晶(あーちゃん)久保田友恵の同級生で陽キャの美術部員
・川上風美(ふみちゃん)久保田友恵の同級生で陰キャの美術部員
「ひどくなんかないよ」とわたしはふみちゃんに言った。「ふみちゃんはただ、〈あーちゃんには盾以上の価値がない〉っていう客観的事実を言っているだけなんだから」
「トモちゃん、その言い方、トゲがあるよ……」
ふみちゃんはそう言って、ちょっとだけ嫌そうな顔をした。ということは、心の中では怒りが煮えたぎっているのだろう。
「じゃあ、ふみちゃんにとってあーちゃんはどんな存在なのかなあ?」
ふみちゃんは考え込んでこう言った。
「……盾。やっぱり盾。それしか思いつかない」
「じゃあホントに盾でしかないんだね」
わたしがそう言うと、ふみちゃんはちょっとだけ困った顔をした。ということは、心の中ではものすごい葛藤が生じているのだろう。
「でも、それではいけないと思う……」
「じゃあ、ふみちゃんとあーちゃんが二人っきりのとき、ふみちゃんにとってあーちゃんは何なのかなあ?」
「……あたしを崇拝する人」
「それって嬉しい?」
「……ホントは、あたしもあーちゃんを崇拝できれば、って思うんだけど、あーちゃんには崇拝できる要素が、なんにも、なんにもないの」
「でも、立派な盾なんでしょ?」
「そんな風に言われても、あーちゃんは多分、……嬉しく思わない」
「ちょうどいいじゃない」とわたしはふみちゃんに言った。「あーちゃんがそこまで空っぽな人なら、ハブられるのは神の導きなのかもしれないよ」
「神……。トモちゃんって、……やっぱり、あの、……カルトなの?」
「違うよ。だってあの人たちは柔道とか絶対にやらないけど、あたしはフツーにやるし。今日はサボってるけど」
「えっ? ……生理痛じゃないの?」
「……じつは違うんだ」
「ええっ⁉ じゃあ、なんであたし、見学してるの? ちっちゃいトモちゃん相手なら、背負い投げもできるかな、って思ってたんだけど」
「サボってよかったよ」
「……ちがう、ちがうよ。なんで、ハブられるのが、神の導きなの?」
「聖書読み始めたらなんかハマっちゃって、〈神の導き〉みたいな言い回しがちょっとクセになっちゃってさ。要は〈災い転じて福となす〉と同じ意味だよ」
「だから、どういうこと?」
「あーちゃんはちょっと一人になって、自分を見つめ直す、っていうか、自分を持つ必要があるよね。空っぽ、ってのはさすがにマズいよ」
「……うん、そうかも」
「だから、ハブられたら一人になれてちょうどいいかな、って。ただそれだけ」
しかしふみちゃんの表情は浮かない。
「内省とか、そういうの、あーちゃんにはムリだよ。だってスマホ中毒だもん。一人になってもスマホいじってるだけだよ」
「ふみちゃんが一生懸命になっても?」
「えっ?」
「崇拝する人がなにかに一生懸命になってたら、さすがに感化されると思うんだけど」
わたしがそう言うと、ふみちゃんは黙って考え込んだ。ということは、心の中では誰かに背中を押されたいと思っているのだろう。
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