15 告白
登場人物
・柊響(ひびきちゃん)中一女子
・久保田友恵(トモちゃん)柊響の同級生で友だち
ひびきちゃんが実力者の地位を不動のものにしたのは、なんといっても文化祭だ。
半年前までランドセルを背負っていたわたしたち一年生にとって、三年生はものすごく大人びた遠い存在だ。
そんな三年生のバンドに一人混じって、なんの違和感もなくギターを操るひびきちゃんはたちまち伝説になった。
とくに男子たちの間で。
──見ず知らずの三年生にいきなりメンバー加入を申し出るなんてどうかしている。
──狂っている。
──なんてロックな女なんだ。
──スーパーサイヤ人だよ。
正直、わたしはすこし怖くなった。
いつもわたしのそばにいる、この女子力ゼロの女の子は、もしかしたら雲の上が似つかわしい、とてつもない人なのかもしれない──。
「トモちゃん、相談があるんだけど、いいかな」
ひびきちゃんから相談を受けるなんてはじめてのことだ。わたしはすっかり舞い上がってしまった。
「もちろん!」
「ありがとう!」
そしてひびきちゃんはわたしの耳元で囁くように言った。
「じつは、児玉くんから告白されたんだけど……」
「えっ!」
これは困ったぞ。
児玉くんは勉強もスポーツもできる結構カッコいい男子だ。
そして、児玉くんはガッちゃんが好きな男子でもあるのだ。
ガッちゃんは勉強熱心な負けず嫌いの女子で、ひびきちゃんをライバル視している(ひびきちゃんのほうはなんとも思っていないのだが)。
そのガッちゃんは文化祭以降、なんだか元気がない。
まあ無理もない。
が、その上、ひびきちゃんが児玉くんと付き合うようになってしまったら、もうガッちゃんは壊れてしまうかもしれない。
困ったぞ。
しかしひびきちゃんはこう言った。
「……どうやって断ったらいいか、教えてくれないかな」
ひびきちゃんとわたしは神通川沿いのベンチで話をした。
「ひびきちゃんは、児玉くんのどこがダメなの?」
チー牛だらけの男子の中にあって、児玉くんは爽やかさ満点の希少種だ。もしわたしが告白されたら──。
「いや、ダメっていうんじゃないけど」
「もしかして、誰か好きな人がいるの?」
わたしがそう尋ねると、ひびきちゃんは首を横に振った。
「ほら、あたし、お子ちゃまだから、恋愛感情っていうのがどうにもわかんなくて……」
ああ、こういうところが〈尼僧〉なのだ。
「ひびきちゃんがお子ちゃまだったら、あたしは微生物だね」
「いいや、トモちゃんは大人だよ。あたしにはトモちゃんみたいな繊細さのかけらもないし。〈感情の機微〉ってやつ?」
たしかに、〈感情の機微〉なんて言葉はひびきちゃんの辞書にはない。断言できる。
なんの取り柄もないわたしが、スーパーサイヤ人みたいなひびきちゃんの力になれるなんて、まったく夢のような話だ。
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