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めんどくさい女の子たち  作者: あかなめ
第六章 久保田友恵と稲垣良美
146/334

145 お礼

登場人物

・久保田友恵(トモちゃん)中一女子

・稲垣良美(ガッちゃん)久保田友恵の同級生でクリスチャン

・柊響(ひびきちゃん)久保田友恵の友だちで同級生

・バンド〈デッド・ムーン〉メンバー

 ・早川智子ちこ(チーちゃん)(元気担当、ボーカル、リーダー)

 ・杉本鈴美(すずみ)(厨二病担当、キーボード+打ち込み)

 ・式波里砂(りさりさ)(クール担当、ベース)

 ・堀井千代子(ホリー)(びびり担当、ギター)

 ・谷絵里奈(えりな)(顔面担当、ドラム)

挿絵(By みてみん)


「ねえ」と堀井さんが立ち上がる。そして向かいに座るひびきちゃんの後ろに回ると、背もたれの上からハグをして、ひびきちゃんの右肩にあごを乗せた。

「ひびきちゃんはばいきんまんだったの?」

「アハハ……」

「じゃあ〈ハヒフヘホ〉って言ってよ」

「……ハッヒフッヘホー」

「かわいいよ」

 堀井さんはそう言ってギュッと抱きしめ、そしてゆっくり腕を離した。


 わたしは隣の席を譲ろうとしたが、いいのよ、と堀井さんは立ち上がろうとするわたしの肩へそっと手を触れて制止した。そして背もたれのてっぺんに両手のひらを置き、前屈みになってひびきちゃんの背後からこう言った。

「ひびきちゃんは〈一番信頼できる人〉の顔を思い浮かべることができるんだね」

「……はい」

「すてきね」

「……でも、失ってしまうことばかり想像してしまうんです。それって、ぜんぜん信頼してないってことですよね」

 ひびきちゃんは正面に座るガッちゃんのほうを向いたまま、背後の堀井さんにそう言った。

 その気弱な言葉に堀井さんはこう返答した。

「失ったら、もう一回手に入れればいいんだよ」

「あ……」

「闘争心を持ち続けよう。お互い」

 そう堀井さんは言って、ひびきちゃんの両肩をポンと叩いた。


「ホリー、もういいのか?」と谷さんが尋ねた。

「うん、気が済んだ」

「じゃあそろそろ帰るよ」と早川さんが言い、三年生のみんながぞろぞろと立ち上がった。

 それを見てひびきちゃんは立ち上がり、「あのう……」と声をかけた。

「ああ、今日は自習にするよ」と早川さんは言い、式波さんと杉本さんへ「な?」と確認した。二人は、ああ、と口々に返事をした。

「いえ、そうではなくて、最後にお礼を言わせてほしいんです」

「どしたの? そんなに改まっちゃって」と早川さんが尋ねた。


 ひびきちゃんは深呼吸を一回すると、長い長いお礼を述べ始めた。


「あたしは自分をずっと空っぽだと思ってました。でも今日の演奏を聴いてすごく満たされた気持ちになりました。あたしは自分の空洞を埋める手頃なサイズの食べ物をずっと探していたのですが、それは間違っていました。今日の演奏のような大きなものに自分をまるごと飲み込んでもらえればよかったんです。


 そして今だから白状しますが、あたしはチーちゃんたちのひたむきに頑張る姿に圧倒されて、心が押しつぶされそうになっていました。そのせいでトモちゃんとガッちゃん……稲垣さんにはものすごく迷惑をかけてしまいました。

 あたしはどうしたらいいのかさっぱりわからず途方に暮れていました。ですが今日、答えが分かりました。みんなと同じように、あたしも自分の課題を解決すべくひたむきに頑張ればよかったんです。


 あたしは思い上がっていました。あたしは勉強ができるので、ひとりで悶々と考えているだけで答えが出ると思い込んでいました。それは大間違いでした。自分が自分であるためには海が必要だったんです。

 みんなはあたしの海です。そのことを教えてくれたみんなに感謝します。今日はホントにありがとう」


 そして最後に深々とお辞儀をした。


 するとリビングの入り口から拍手が聞こえてきた。

「お、お母さん! 聞いてたの⁉」

「まあまあだね。65点」

「今日は遅く帰って来てって言ったじゃない!」

「遅く帰れって言われたら早く帰りたくなるに決まってるじゃない」

 そう言ってひびきちゃんのお母さんが中に入ってきた。


「みんな来てくれてありがとうね。この子ぜんぜん友だちいないから、仲良くしてもらうと重たい愛を返してきちゃうんだけど、まあ大目に見てやってね」

「あ、はい……」と三年生が圧倒されてしまう。

 このお母さんにかかると、あのひびきちゃんがまるで子ども扱いだ。まあ実際に自分の子どもなんだけど。


「あと五分くらいいいかしら?」

 ええ、という三年生の返事を聞き終わらないうちに、お母さんはキッチンに消え、お盆で飲み物をたくさん持ってきた。缶ビールが一本と、色とりどりのノンアル飲料。

「湿っぽいまま帰したりはしないよ」

 お母さんはそう言ってみんなへテキトーにノンアル飲料を配ると、自分はビールを開けてゴクッ、ゴクッ、ゴクッ、プハーッ、とやった。

「ひびき、お前は理屈っぽすぎていけないよ。ミュージシャンへのお礼は演奏で返すんだ。単純な話だよ」

 お母さんから強引にそう言われて、ひびきちゃんは仕方なさそうに笑った。

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