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めんどくさい女の子たち  作者: あかなめ
第六章 久保田友恵と稲垣良美
143/334

142 憧れてきたんだ

登場人物

・久保田友恵(トモちゃん)中一女子

・稲垣良美(ガッちゃん)久保田友恵の同級生でクリスチャン

・柊響(ひびきちゃん)久保田友恵の友だちで同級生

・バンド〈デッド・ムーン〉メンバー

 ・早川智子ちこ(チーちゃん)(元気担当、ボーカル、リーダー)

 ・式波里砂(りさりさ)(クール担当、ベース)

 ・堀井千代子(ホリー)(びびり担当、ギター)

挿絵(By みてみん)


 普段の堀井さんは上品で穏やかそのものの人だ。

 そんな堀井さんの歌声は線が細く、震えていて、明らかに歌い慣れていない人の声をしていた。早川さんの圧倒的な歌唱の直後だけに、わたしは余計にそう感じてしまった。

 しかしその生々しい声には、早川さんの洗練されたヴォイスにはなかった、荒々しいまでの異様な迫力があった。

 堀井さんは今、歌う理由があって歌っている──わたしにはそんなふうに思えた。


「お粗末様でした!」とお辞儀をして堀井さんが歌い終えた。七人みんなが惜しみない拍手を送る。

 堀井さんがギターをスタンドに戻し、アンプのスイッチを切って立ち上がる。と、ガッちゃんの隣に座っていた早川さんがなぜか席を外し、床に座っている仲間に合流した。そして空いた席に堀井さんが座った。


「ひびきちゃんもあいみょんが好きなんだってね?」と堀井さんが尋ねる。

「〈好き〉とかじゃないんです。あいみょんはあたしの旦那なんです」

 ひびきちゃんが真顔でそう言うので、ガッちゃんとわたしは吹き出してしまった。床に座る三年生たちも笑っている。

「りさりさが言ってたこと、作り話じゃなかったんだ」

「だいたい、チーちゃんが口止めするのが悪いんですよ」

「ひびきちゃん、それは大目に見てやって」と堀井さんは言った。


「チーちゃんは半世紀前の価値観で生きてる人だから、アイデンティティってのをすっごく大事にしてるんだ」

「そうだったんですか。あたし泣いて喜んじゃったりして、ものすごく失礼でしたね」

「なるほどね、そんな猛スピードでなんでも理解してたら中学校の勉強なんて退屈過ぎちゃうよね」

 ガッちゃんとわたしは顔を見合わせた。そしてわたしは恐る恐る堀井さんにお願いした。

「あのう、もう少し噛み砕いてお話しいただけると助かるんですが……」


 堀井さんの説明によれば──

 早川さんはああ見えて結構な努力家で、セミプロのお姉さんに習って歌の練習を真面目にやっているのだという。だからそうやって努力で勝ち得た自分の歌声を〈あいみょんに似ている〉の一言で片付けられてしまうと、アイデンティティが傷つけられた気がしてものすごく凹んでしまうのだという。しかしそれを跳ね返すだけのアイデンティティがまだ自分にはないことも自覚しているという……。

「なあ、そういう話は本人がいないところでしてくれないかなあ」と早川さんがぼやいた。


「じつはあたし、ひびきちゃんにずっと嫉妬してたんだ」と堀井さんは言った。

 それに対し、ひびきちゃんはなんと答えていいのか戸惑っている様子だった。

「でもね、ひびきちゃんもあいみょんのファンだと知って、同じファンに醜い感情を持ってちゃいけないな、って思ったの」

「……あのう、なんで〈憧れてきたんだ〉を歌ったんですか?」とひびきちゃんが尋ねた。


「コード進行がないから」と堀井さんは答えた。「この曲なら歌に集中できるし、あたしでも弾き語りができるの」

「それだけですか?」

「そう」

「よかったぁ」とひびきちゃんが安堵した。

「頭がいいだけで、まだなにも成し遂げてないひびきちゃんにあたしは憧れたりなんかしないよ」

あいみょん - 憧れてきたんだ

https://www.youtube.com/watch?v=pybAnnhJFzc


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