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めんどくさい女の子たち  作者: あかなめ
第六章 久保田友恵と稲垣良美
142/334

141 君はロックを聴かない

登場人物

・久保田友恵(トモちゃん)中一女子

・稲垣良美(ガッちゃん)久保田友恵の同級生でクリスチャン

・柊響(ひびきちゃん)久保田友恵の友だちで同級生

・バンド〈デッド・ムーン〉メンバー

 ・早川智子ちこ(チーちゃん)(元気担当、ボーカル、リーダー)

 ・堀井千代子(ホリー)(びびり担当、ギター)

 ・式波里砂(りさりさ)(クール担当、ベース)

挿絵(By みてみん)


 早川さんがポケットからルーズリーフを一枚取り出す。

 堀井さんがギターをジャカジャカ鳴らし始める。

 三秒後に、わたしのとなりでひびきちゃんが、えっ、と声を漏らす。そして次の三秒後、ひびきちゃんは確信を持って、えーっ!、と驚きの声を上げた。

 早川さんはルーズリーフに目を落としながら歌い始める。


 ──少し寂しそうな君に こんな歌を聴かせよう ♪


 声質があいみょんそっくりの早川さんが歌うのは、わたしでもよく知っているあの曲だった。


 ひびきちゃんは喜びのあまり隣のわたしをガシッと固く抱き寄せる。そして、ひびきちゃんにされるがままのわたしは目を閉じてその歌声に耳を澄ませた。

 わたしは鳥肌が立った。

 ホントにすぐそばであいみょんが歌っているようなのだ。これはヤバい。

 そしてわたしの左耳には、早川さんといっしょに歌をつぶやくひびきちゃんの声が入ってくる。


 早川さんの前であいみょんの話はタブーだったはずだ。

 なのに、その本人が今あいみょんを歌っている。

 そして、隣のひびきちゃんの常軌を逸した喜びよう。

 3ーCの教室で式波さんがわたしに「まかせろ」と即答していたのはこのことだったんだ。


 わたしを抱き寄せるひびきちゃんの腕が不意に離れた。わたしは目を開けてひびきちゃんの様子をうかがうと、なんとボロボロと号泣していたのだ。向かいに座るガッちゃんも当惑している。

 大丈夫?、とガッちゃんが小さく声をかけた。ひびきちゃんは、うんうん、と二度うなずいた。


 二度目のサビの後の、原曲では演奏がフッと消える箇所で、早川さんはひびきちゃんのほうを見てマイクを観客に向けるようなしぐさをした。

 ひびきちゃんはボロ泣きしながら歌詞を口ずさんだ。


 ──君がロックなんか聴かないこと知ってるけど

   恋人のように寄り添ってほしくて

   ロックなんか聴かないと思うけれど

   僕はこんな歌で あんな歌で


 そして早川さんが最後のサビを熱唱し、あっという間の数分間が終わった。


「ねえ柊さん、ホントに大丈夫?」とガッちゃんが心配そうに尋ねる。

 それにひびきちゃんはこう答えた。

「今のあたしは海の中のコップみたいな気分なんだよ」

 するとガッちゃんは何も言わずに、ただ小さく笑った。

 わたしは隣に座る、ただのあいみょんファンの女の子に目をやる。

 感動で泣き腫らした彼女の、ガッちゃんを見つめる横顔はとても清らかで美しかった。

「あたしね、ガッちゃんの言ってたことが少しだけわかったような気がしたよ」と彼女は言った。


 歌い終えた早川さんがガッちゃんの隣に座ってひびきちゃんに言った。

「いやあ、お前が泣くほどあいみょんが好きだったなんて、ぜーんぜん知らなかったよ」

「だって、チーちゃんの前だとあいみょんの話できないじゃないですか」

「わりーな」

「ほかの曲も歌ってくださいよ」

「ヤだね」

「なんでですか?」

「ほら、最後の一曲が始まるよ」


 堀井さんが再びギターを掻き鳴らす。ああ、これもわたしが知っている曲だ。イントロですぐに分かる。

「ホリーもあいみょんの大ファンだってことがついこの間判明したんだ。長いこと一緒にいるのに変な話だよな」と早川さんが言った。

「ぜんぶチーちゃんが悪いんですよ」

「ハハハ、そうだな」

あいみょん - 君はロックを聴かない

https://www.youtube.com/watch?v=ARwVe1MYAUA


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