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めんどくさい女の子たち  作者: あかなめ
第二章 稲垣良美と児玉くん
14/334

14 トモちゃん

登場人物

・柊響(ひびきちゃん)中一女子

・久保田友恵(トモちゃん)柊響の同級生で友だち


※ 今回からトモちゃん目線に変わります。

挿絵(By みてみん)



挿絵(By みてみん)



 わたしの名前は久保田友恵(ともえ)

 みんなからはトモちゃんと呼ばれている。

 初対面の人を除いて、〈久保田さん〉と苗字で呼ばれることはまずない。


 フレンドリーさなら誰にも負けない自信がある。

 なぜなら、取り柄がないわたしは誰にも嫉妬されないから。

 取り柄がないのがわたしの一番の取り柄。

 口癖は「えー、すごいねー!」。

 〈友恵〉の名の通り、わたしは友だちに恵まれている。


 友だちを多く作り、敵を少なくするためにもっとも大切なことは、美貌でも愛嬌でも思いやりでも才能でも、ましてやお笑いのセンスでもない。

 それは単純に、実力者と仲良くなることだ。


「ねえトモちゃん」と、ひびきちゃんがわたしに尋ねる。

「なんでトモちゃんはあたしなんかと仲良くしてくれるの?」

「そりゃあ、ひびきちゃんが好きだからだよ」

「えへへ。あたしもトモちゃんが好きだよ」

 しかし、なんてったってひびきちゃんはクラスの実力者だからね、とはさすがに言えない。


 わたしのなかで、ひびきちゃんは一番の変人だ。

 ひびきちゃんは誰ともつるまない。

 ぼっちで浮いているのではなく、一人でいるのが本当に気にならないようだ。


 しかしずっと一人でいるのでもない。

 話がしたくなったら話したいことを話をしたい人に躊躇なく話しに行く。

 見えない膜で護られたデリケートな輪の中に土足でズカズカ入っていく。

 グループ間にある序列や反目といっためんどくさい力学を、ひびきちゃんはガン無視する。

 圧倒的な鈍感力──。

 だから陰口も言われた。

 友だちが多いわたしにはそういうことがよく耳に入ってきた。


 しかし、

「ひびきちゃん、○○さんがひびきちゃんのこと○○だって陰口たたいてるよ」

と、わたしが教えてやっても、

「陰で言う分には別にかまわないけどね」

 ひびきちゃんは事もなげに言う。

「ええ? でも……」

「でも、実害が出たら面と向かってガツンと言うつもりだよ」

 だから大丈夫だよ、とニッコリ笑う。

「でもムカつかない? ありもしないこと言われて」

「あたしはね、誰にでも陰口をたたくくらいの自由は保障されるべきだと思ってるの」


 そう、ひびきちゃんはとても強い。

 口でかなう人は誰もいない。

 それに、ひびきちゃんは単に相手を非難するだけではないのだ。

 陰口をたたく人にはかならずその背景に心の傷がある。

 劣等感だったり、嫉妬心だったり。

 ひびきちゃんはそこに寄り添おうとする。

 ムチで叩き、アメを与える。


 ──あなたはそのままでとっても綺麗なんだよ。


 そんなことを言われて心を動かされない女の子などいやしないのだ。

 だから、たくさんの女子の心が動かされ続けた今となっては、ひびきちゃんのことを悪く言う人もいなくなった。ひびきちゃんだけはどのグループへも自由に遊びに行けるフリーパスを手にしていて、ふらりと気まぐれに現れるかわいい猫のようにどのグループでも歓迎されている。もちろんそんな人はほかにいない。

 クラスに吉田さんというおっかない感じの女子がいるが、彼女はひびきちゃんのことを〈尼僧〉だと言っている。煩悩まみれの女子の中に、ひとりだけ尼僧がいる──これ以上のうまい喩えはないとわたしも思う。


 片やわたしの言う「えー、すごいねー!」はただの薄っぺらなご機嫌取り。

 ひびきちゃんにはとてもじゃないがかなわない。


 頭のいいひびきちゃんはわたしのあざとさに気づいているのかもしれない。

 しかしひびきちゃんは、男子の悪口は言っても、女子の悪口はけっして言わない人だ。

 だから真相はわからない。


 ただ、わたしはいつのまにかひびきちゃんから離れられなくなっていた。

 打算抜きに。


 わたしは、自分にないものをいっぱい持っている、ぶっきらぼうで誠実なひびきちゃんのことが心底大好きになっていたのだ。

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