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めんどくさい女の子たち  作者: あかなめ
第六章 久保田友恵と稲垣良美
138/334

137 軽口

登場人物

・久保田友恵(トモちゃん)中一女子

・稲垣良美(ガッちゃん)久保田友恵の同級生でクリスチャン

・柊響(ひびきちゃん)久保田友恵の友だちで同級生

【みてみんメンテナンス中のため画像は表示されません】


 ひびきちゃん()までの帰り道、よく知らない人同士で、はたして間が持つのかなとわたしは不安だったのだが、ぜんぜん平気だった。三年生はみんなイヤホンをつけて自分の世界に入っていたからだ。

 その異様な光景に「あの人たち、もしかして仲が悪いの?」とガッちゃんがひびきちゃんへ心配そうに尋ねた。

「うん。もうサイアクなの」とひびきちゃんが答えた。

「えっ?」

「ウソ。リスニングの勉強をしてるんだよ」

 そんなひびきちゃんの軽口(かるくち)にガッちゃんはムッとした。

 ああもうサイアク。ガッちゃんがこの手の冗談が嫌いだって、ひびきちゃんはいつになったらわかってくれるんだろう?


「ねえ、ガッちゃんは心配して尋ねたんだよ。なのにそんな茶化すような言い方しちゃダメだよ」とわたしはひびきちゃんを責めた。

「……ああ、ごめんね」とひびきちゃんが表情を曇らせた。

「いいのよ」とガッちゃんが言った。「あたしが真に受けすぎなんだから」

「ごめんね。場を和ませるつもりが、逆に重たくしてしまって」

「だからいいって。でもね、できればジョークは、もう少しウソだとわかるように話してほしいな」とガッちゃんは言った。

「アイアムソーリー、ヒゲソーリー」

 ひびきちゃんにそう言われて、ガッちゃんはまたムッとした。


「……ごめん」

「ねえひびきちゃん、ムリに冗談言うのはやめようよ」とわたしは言った。

 ひびきちゃんはガッちゃんが来てくれて単にはしゃいでいるだけなのだ。ただその喜びの表現方法がダメダメすぎて、気持ちがまったく伝わらないでいる。

 ひびきちゃんがしょぼんとしょげかえる。すると、その丸まった背中を見てガッちゃんがぷぷっと失笑した。不意のガッちゃんの笑みに、やっと冗談が通じたとでも思ったのか、凹んでいたひびきちゃんも笑った。そしてそんなひびきちゃんに私も笑ってしまった。


「ねえ、トモちゃんってクリスチャンだったの?」とひびきちゃんは尋ねた。

 ストレートにそう訊かれたのは意外にも初めてだった。

「ちがうよ」

「そう。じゃあ、あの聖書は誰の?」

「……貸してもらったんだよ」

「もしかして……」と言って、ひびきちゃんはカルトの名前を口にした。「……じゃないよね?」

「ちがうよ。良識あるカトリックの人が〈余ってるから冷やかし半分で読んでみて〉って貸してくれたんだ」

「あーよかった!」とひびきちゃんが安堵した。「もしかしたらカルトに洗脳されたんじゃないかって、それだけが心配だったんだ」

 ああ、ひびきちゃんまでカルトを危惧していたのか……。


「日本でキリスト教っていうと、どうしてもあのイメージがあるよね」とガッちゃんが口を開いた。

「玄関開けて二人いたらもう、それだけでぞっとしちゃうんだ」とわたしは言った。

「ああ、あれね」とひびきちゃんが言う。「親にむりやり付き合わされてる子どものほう、特にあたしと同じ年くらいの子だと、かわいそうだな、ってすっごく思うんだけど、どうすることもできないんだよね」


 ひびきちゃんは話を続ける。

「でも、じゃあクリスチャンってどんな人なの?って訊かれても、あたしにはちょっとイメージ湧かないんだよなあ。身近にぜんぜんいないから」

「そうだよね。身近にいないとわかんないよね」とわたしは言った。

「ねえ、トモちゃんに聖書を貸してくれた人ってどんな人なの? 親戚かなにか?」

「いや、同い年の友だちなんだ」

「へえ」

「その子はつねに聖霊に満たされているからずっとトランス状態で、天に向かって神の言葉を、自分の知らないヘブライ語で叫んだりするんだ。あと、とにかく頭に油をかけまくるんだよ」

 わたしがふざけてそう言っていると、ガッちゃんがわたしの頬をやんわりつねって言った。

「あたしはそんな人間じゃありません」

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