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めんどくさい女の子たち  作者: あかなめ
第六章 久保田友恵と稲垣良美
134/334

133 悪霊

登場人物

・久保田友恵(トモちゃん)中一女子

・稲垣良美(ガッちゃん)久保田友恵の同級生でクリスチャン

・柊響(ひびきちゃん)久保田友恵の友だちで同級生

・畠中祐生ゆうき(ハタケ)久保田友恵のとなりの席のチャラい水泳部員

・増田敏生としき(マスオ)久保田友恵の同級生で硬派の剣道部員(肋骨骨折中)

・吉田夏純かすみ 久保田友恵の同級生でクラス一おっかない女子

・川上風美ふみ(ふみちゃん)久保田友恵の同級生で陰キャの美術部員

・近藤コロナ 久保田友恵の同級生で久保田友恵を蛇蝎のように嫌っている

挿絵(By みてみん)


 給食の時間、隣のハタケは今日も机をくっつけてきた。

「一緒に食べよーぜー」

 しかし、チャラいハタケの気遣いが今日はちょっとだけ重く感じる。

「ねえハタケ、そんなに気ィ使わなくてもいいよ。もう大丈夫だから」

 強がりではない。ふみちゃんの話から、もうわたしへの憎しみはピークを越えたのかな、という気がしていたのだ。たぶんふみちゃんの他にも引いている人はいるだろうし、そもそも悪口というものはある程度言ったら気が済むものなのだ。

 しかしハタケはわたしにこう囁いた。

「ハブられるのが終わるまでは、こうしようと決めたんだ」


 わたしたちはサウルについて語り合った。ものすごくおおっぴらに。ハタケは声がデカいので、わたしもつられて声がデカくなってしまうのだ。


 神はサウルに〈敵を滅ぼしても何も持ち帰るな〉と命じた。しかしサウルは敵の美味しそうなお肉を持って帰ってきた。しょうがないよね、だって美味しそうなんだもん、とわたしたちは思う。


 約束を破ったサウルに神は怒り、サウルを見捨てた。でもさあ、それくらい許してやれよ、怒りの沸点低過ぎだよ、と私たちは思う。


 そしてサウルはごめんなさいを言うのだが、なにぶん愚かなゆえ、余計な一言を口にしてしまう──王の威厳がなくなるから、私を見捨てたことは民には内緒にしておいてください、と。

 そんなのは悔い改めではない、この期に及んでお願い事なんてふざけんな、と神は完全にブチ切れる。いやいや、ごめんなさいって言ってるんだし、なにもそんなにブチ切れなくても。それにサウルは愚かなんだから、悔い改めとはこうするんだよと教えてあげてもよかったんじゃないかな、とわたしたちは思う。


 片や賢いダビデは神の願うとおりに動き、失敗してもすぐに神の望むような悔い改めをする。

 神に捨てられ落ちぶれる一方のサウルと、そのすぐ側で神の寵愛を一身に受け、民の人望を一身に集めるダビデ。サウルはそんなダビデを妬み、抹殺しようとどこまでも追いかけていく。一方ダビデはサウルを返り討ちにする機会が何度もありながらあえてそれを行わない。

 必死のサウルと余裕のダビデ。

 悪霊に憑かれたサウルと神に愛されたダビデ。

 愚かなサウルはもはや賢いダビデに何一つかなわない。サウルはただひたすらみじめな形だけの王であり、単なるダビデの噛ませ犬だ。

 そして最期、敵に包囲されたサウルは王の誇りを懸けて壮絶な自害を遂げる。しかしその遺体は敵のおもちゃにされてしまう。サウルには最後の最後までなんの救いもない。

 根はいいヤツなのに、あんまりだよな、とわたしたちは思う。


「サムエル記書いた人ってさー、ダビデを引き立てるだけの目的で愚かなサウルを描いたんだと思うんだけどー」とハタケが言った。「トモちゃんはどう思う?」

「なんかダビデって、出木杉くんみたいで人間味ってのが感じられないんだよね。それに晩節汚してるし、あたしはどうも好きになれないんだよな」とわたしは言った。

「むしろ人間味のないダビデがサウルの人間味をとことん引き出してるよね。嫉妬とか、嫉妬とか、嫉妬とかー」

「うんうん、そだね。サウルは愚かさと嫉妬心の塊なんだよね」

「こんなやつ側にいたら最悪だけど、遠くから眺めてるぶんにはこんなに面白いキャラはないよねー」


 サウルは嫉妬という悪霊に憑かれてしまった。そんなサウルをハタケは〈メンヘラストーカー〉と呼んで笑った。が、現実のメンヘラストーカーは謎の使命感で罪悪感など一切なしに相手を惨殺する。ぜんぜん笑える話ではない。

 嫉妬が悪霊であるのなら、近藤さんに憑いている悪霊も、もしかしたら嫉妬だったりするのかな? LINE でわたしを惨殺した気になってるのかな?


 近藤さんはカースト的には中の下の人だ。顔立ちこそ中の上だが、とにかく無表情で覇気がない。勉強はあまりできず、先生に当てられてもたいてい無言だ。口数もきわめて少ない。自分に自信がないんだろう。和を乱すことはしないが、一緒にいて楽しいと思う人もいないのではないか。そんな近藤さんを一言で表すなら、中位のグループの一番端っこでただ突っ立っているだけの人だ。


 そんな近藤さんがいま悪霊に憑かれている。

 神に見捨てられたサウルと、お情けでグループに入れてもらっている近藤さんがわたしの中でシンクロする。

 するとわたしはさながら、神の寵愛を一身に受けたダビデなのかな?


 でもわたしはグループの寵愛なんか一切受けていない。わたしが寵愛を受けているのは、まずはひびきちゃんだ。そして吉田さんにも、ほかの人から見れば寵愛を受けているように見えるのかもしれない。そこにガッちゃんを入れてもいいかな。

 けれども、もし近藤さんの悪霊の正体が嫉妬なのであれば、近藤さんがこの三人のせいでわたしに嫉妬するなんてどう考えてもありえない。


 だとすれば、嫉妬の理由はハタケかマスオのどっちかだ。

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