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めんどくさい女の子たち  作者: あかなめ
第六章 久保田友恵と稲垣良美
130/334

129 スイッチ

登場人物

・久保田友恵(トモちゃん)中一女子

・柊響(ひびきちゃん)久保田友恵の友だちで同級生

挿絵(By みてみん)


 わたしはひびきちゃんをぎゅっと抱きしめたまま、ひびきちゃんがわたしからどんどん遠ざかっていくような感覚を覚えていた。

 人は互いを分かり合えないけれど、志の輔についてなら分かり合える──とお母さんが言っていたのをわたしは思い出す。

 この朝の10分かそこらのひとときはわたしたち二人にとっての志の輔だ。ケーキ作りに失敗したこととか、〈とほすけ〉の人気のなさとか、余った消しゴムのこととか。そういうことならひびきちゃんとわたしは分かり合える──わけではなかった。


 ひびきちゃんは刹那的なのがイヤだと言った。いっぽうお母さんは、人間関係は刹那的でしかありえないと言う。

 わたしはひびきちゃんをなだめるため、ほとんど衝動的に抱きしめてしまった。そしてひびきちゃんはそれで満足した。

 しかしわたしはそうすることで、押してはならないスイッチを押してしまったのだ。人は互いを分かり合えない、とお母さんが忠告してくれたにもかかわらず。


 ひびきちゃんのことを分かりたいと思えば思うほどに、分からないことだけが増殖していく。

 なぜ一度もプレゼントを貰ったことがないのか? そんなのおかしいよ!

 なぜ自分は価値のない空っぽな人間だと頑なに思い込んでいるのか? 完全に間違ってるよ!

 どんなキャラでも自分からかけ離れてしまうとは? じゃあ正体はバケモノなの? 

 そして、「トモちゃんにはあたしの本質がわかるって言うの?」と言った、あの言葉の真意は?


 ああ、お母さんに鼻で笑われる。

 せっかくの志の輔の舞台が台無しだ。

 もうやめよう──。

 わたしは腕をゆっくり(ほど)いた。


「今日のトモちゃん、なんだかヘンだよ」

 そう言われたわたしは、

「ひびきちゃんにはあたしの本質がわかるって言うの⁉︎」

とキツめに文句を言った。

「えっ……」

 ひびきちゃんがひるんだ。

 わたしは笑って「冗談だよ」と言った。「やられたらやりかえす。一倍返しだ! なーんて」

「アハハ、それが等価交換ってやつだね」

「そっ。人間関係を維持するには、ときに反撃も必要なんだよ。やられっぱなしだと関係が腐ってしまうんだ」


 そうやってわたしはその場をごまかした。

 そんなわたしの不誠実さに、ひびきちゃんは気づいているのか、あるいはぜんぜん気づいていないのか?

 それはわたしにはわからない。

 いや、わからないほうがいいのだ。


 客席にとどまっている限り、わたしたちは志の輔を楽しむことができ、志の輔について分かり合うことができる。

 しかし欲を出して舞台によじ登ろうとしたら、もうなにもかもが台無しになってしまう。

 そんな愚かな真似をして、仮にひびきちゃんの何かが分かったとしても、その引き換えにわたしは間違いなくひびきちゃんを失うことになるのだ。

 現にさっき失いかけたばかりだし。


 立ち止まっては長々と話をするのを繰り返したせいで、わたしたちはすっかり遅刻してしまった。

 ひびきちゃんは

「あたしが途中で気分悪くなったことにすればいいよ」

と、実にすがすがしい声で言ってくれた。「そしたらあたし、堂々と保健室に直行できるから」

「保健室は飽きたんじゃないの?」


「ちょっといま、胸がいっぱいなんだ」

「それってもしかして、あたしのせい?」

「そーだよ、トモちゃんが悪いんだよ。だから休み時間はお見舞いに来ないとダメなんだから」

 笑いながらそう言うひびきちゃんに、わたしを悪く思う気持ちが微塵もないことくらいすぐにわかった。

「うん、わかったよ」とわたしは笑顔で答えた。

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