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めんどくさい女の子たち  作者: あかなめ
第一章 柊響と早川貴子 その1
13/334

13 キス

登場人物

・柊響(ひびきちゃん)中一女子

・早川貴子きこ(キーちゃん)高三女子で早川智子の姉

挿絵(By みてみん)



「やめてください。そんなことをされたら、ますます涙が止まらなくなります」

 しかしキーちゃんはわたしの肩に置いた手を離さなかった。

 それどころか、逆にわたしに覆い被さってきた。


「ねえ、ひびきちゃん」

「はい」

 わたしはひざに顔をうずめたまま返事をした。

「キスしたことある?」

「いいえ」

 あるわけないでしょ。

「あたしもないの」

「……」

 意外だ。ゆるふわで男受けしそうな感じなのに。

「古臭いかもしれないけど、あたしは、初めてのキスは本気で好きになった人としたいと思ってるの」

「そうですか」

「そして、そういう人は、男の人しか考えられないの」

「……」


「なのに、不思議ね。今、あたしはひびきちゃんと猛烈にキスがしたいの」

「……同情されてもみじめになるだけです。だいいち、キーちゃんは他人本位すぎます。あたしはキーちゃんに、もっと自分本位になってほしいんです」

「自分本位って、チーちゃんみたいになれってことかしら?」

「いえ、あそこまで行っちゃうと、あたしは悲しくなります」

 クスッ、というキーちゃんの小さな笑い声がわたしの耳に届いた。

「ねえ、顔を上げて」

「こんな汚い顔、キーちゃんに見せられません」


 まさか、キーちゃんがわたしを押し倒すとは思っていなかった。

 全身の力が抜けたわたしは簡単に床に転がった。

 自分はタチだとばかり思っていたのに、体は完全にネコとして反応した。

 じつに不思議だ──。

 キーちゃんの感触をくちびるに感じながら、わたしはそんなことを冷静に考えていた。


 キーちゃんがわたしの背中に手を入れる。

 わたしもキーちゃんの背中に腕を回し、バカな小猿のように抱きしめる。

 たがいの胸と胸が圧着するのは、こんなにも幸せなことなのか。

 涙が止まらない──わたしは今までこんなにもこらえていたのか。


 同情心につけ込んで何が悪い。

 このあと猛烈に悲しくなるのは目に見えている。

 だから今を一生の思い出にするんだ。

 

 キーちゃんが唇を離し、ゆっくりと身を起こした。

「……やっちゃった」

「……やっちゃいましたね」

 あははは。

 わたしたちは照れ笑いをした。

「だって、スウィングしなけりゃ意味がないんでしょ。しょうがないじゃないの」

「あたしは自分の意味のなさを思い知らされました」

「ひびきちゃんもいつかスウィングできるようになるといいね」


 キーちゃんはやさしくそう言うが、わたしにはそんな日が来るとはまったく思えなかった。きっとわたしはお婆さんになるまで隅っこでコソコソし通しで、誰とも心が通い合わないまま、生まれてくるんじゃなかった、と嘆きながら孤独にくたばるんだ。


「ひびきちゃん」

 おもむろにキーちゃんがハグしてきた。

 そしてわたしの背中をポンポンと叩く。

「こういうのがハグっていうのよ」


 もう夢の時間は終わったんだ。

 しっかりしろ自分。

「そうだったんですか。わたしはてっきりこういうものを……」

 わたしは宝塚男役口調でそう言いかけると、グイッとキーちゃんを抱き寄せ、耳元で

(ハグだと思っていました)

と囁いた。

「キャー、ヤラシー」

 キーちゃんはわたしを両手で突き放すと、ギャル口調で笑って言った。

「冗談ですよ」

 この言葉にウソはない。

 これは本当に冗談なのだ。


 こんなにすがすがしい失恋がこの世にあるなんて。

※ ひびきちゃん視点はひとまず終了です。最後までお読みくださりありがとうございます。

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