128 本質
登場人物
・久保田友恵(トモちゃん)中一女子
・柊響(ひびきちゃん)久保田友恵の友だちで同級生
わたしたちはひびきちゃんが壁を作っているのだと思っていたが、実際はわたしたちのほうがひびきちゃんの前にせっせと壁を作っていたのかもしれない。そして壁のほうをひびきちゃんだと勘違いして、土塊に対して「よそよそしいな」とか思っていたのかもしれない。
「でも、そうだとしても、〈本物のあたしはこっちなんだよ〉ってアピールしないと今の状況は変わらないよ」とわたしは言った。
「もしかして本物の自分を晒すの? それはムリだよ」
「本物じゃなくてもいいんだよ。できあいのキャラでもいいんだ。こう見てくれたら嬉しいなと思うキャラを伝えるんだよ」
しかしひびきちゃんは「それもムリだよ」と、とりつく島もない。
「なんで?」
「そういうキャラは、本物の自分とかけ離れたものだとかえって辛くなってしまうからだよ」
「かけ離れてないキャラにはできないの?」
「それができればいいよね。でもあたしの場合、それは不可能なんだ」
「なんで不可能なの?」
わたしがそう尋ねるとひびきちゃんは黙りこくってしいまった。
「今の〈マイペースで女子力ゼロだけどお人よし〉ってキャラは本物の自分とかけ離れてるの?」
「トモちゃんもあたしをそんなふうに思ってるの?」
「ひびきちゃんは確かに〈マイペースで女子力ゼロだけどお人よし〉な人だけど、それはひびきちゃんの本質なんかじゃぜんぜんないよ」
「そう言ってもらえて嬉しいんだけど、残念ながらあたしには本質なんてものはないんだよ」
「違うよ!」
「じゃあトモちゃんにはあたしの本質がわかるって言うの?」
「そんなの知らないよ! バカ、わからず屋!」
「ええっ?」
「あたしはひびきちゃんと二人っきりでこうやって話しながら登校するのがとっても楽しいんだよ。ひびきちゃんは?」
「あたしも楽しいよ」
「じゃあそれでいいじゃない?」
「えー? なにがいいの?」
「お互い本質なんてわからないし、自分でもわからないけど、きっとひびきちゃんの本質ってのがあるからあたしは話してて楽しいんだよ。ひびきちゃんもそうだと嬉しいんだけどな」
「うん、あたしもトモちゃんの本質がなにかなんて言葉にできないけど、そういうものが確かにあるとは感じるよ」
「ありがとう。じゃああたしたちはお互いの本質を感じながら、心から楽しんでる者どうしってことなんだよね。もうこれだけで十分じゃない? ほかになにが欲しいって言うの?」
「そうだね。……でも〈楽しければいい〉っていうのは、ちょっと刹那的じゃないかなあ?」
「呆れたよ! ひびきちゃんがここまでバカだとは思わなかったよ!」
「トモちゃん……」
「刹那的なのがイヤなんだったら、こうすればいいんだよ!」
わたしはそう言い捨てた。そしてひびきちゃんの正面に立ち、その控えめな胸に鼻が痛くなるほど顔を押しつけギューッと強く抱きしめた。
ひびきちゃんは何の抵抗もしなかった。
わたしはひびきちゃんのみぞおちに向けて言った。
「これでもまだ刹那的かな?」
「いいや、課題はきれいに解決されてしまったよ」
ひびきちゃんはそう言って両手をわたしの肩にそっと置いた。
「トモちゃんは天才だね」
「ひびきちゃんがバカなだけだよ」
「アハハ、そうだね。その通りだよ」
「ねえトモちゃん、いつになったら腕を解いてくれるのかなあ?」
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