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めんどくさい女の子たち  作者: あかなめ
第六章 久保田友恵と稲垣良美
125/334

124 長文

登場人物

・久保田友恵(トモちゃん)中一女子

・稲垣良美(ガッちゃん)久保田友恵の同級生でクリスチャン

・畠中祐生ゆうき(ハタケ)久保田友恵のとなりの席のチャラい水泳部員

・安倍あきら(あーちゃん)久保田友恵の同級生で陽キャの美術部員

挿絵(By みてみん)


 〈LINE がイヤだ〉と自分で言っておきながら、わたしは金曜の夜、ガッちゃんに LINE を送ってしまった。


 ──ハタケがサムエル記にドはまりしてる 間違いなく週末で読み終わるから次のオススメがあったら教えてほしいな


 既読はすぐに付いた。が、返信は来ない。

 そのあとわたしはいつものようにスマホでスタサプを開いて講義を聞いていたのだが、返信がなぜ来ないのか気になってさっぱり集中できなかった。

 もしかして、聖書に没頭していたガッちゃんの集中力を削いでしまったのかなあ? 怒っているのかなあ? ガッちゃん、すぐ怒るからなあ。でも悪いのは自分だし……。だけど〈LINE なんか送らないで〉の一言でもあったらわたしの不安もやわらぐのになあ……。


 いいや、既読スルーや亀レスは本人の自由なのだ。わたしは誰の自由も尊重するし、だからガッちゃんの自由も大いに尊重するのだ。

 ……なんて自分に強く言い聞かせないと、わたしは自分の中で勝手に湧き出てくる不安をぎゅうっと押さえつけられないでいる。

 あーちゃんたちにしてみれば、こんなのが何日も何日も続いたんだ。みんながわたしにイラつくのもよーく分かるよ。

 なんでわたしたちはこんなふうに、LINE ごときに振り回されるようにできているんだろう? ホントにイヤだ。


 返信が来たのは二日後、日曜の夜だった。


 ──サムエル記に匹敵する面白さがある物語は、ヨブ記、あるいは本丸の創世記です。どちらにするか? とても悩ましい。ヨブ記は短いが、あまりに残酷です。一方の創世記は読みやすいし、教養にもなります。しかし読み始めたら五冊目の申命記まで読まざるを得ず、そうなるとあまりにも文章が長すぎます。ではどちらにするか? 私は二日考え、創世記のほうを勧めることに決めました。数日でサムエル記を読破できるのであれば、あの超大さもさほど苦にならないと考えたからです(ただし、わからない箇所と退屈な箇所はどんどん読み飛ばすこと。そうしないとあの長文は読み通せません)。それに、ヨブ記の残酷さが畠中君へトラウマを刻みかねないのも、私がヨブ記を勧めない理由です。この返信を書くにあたって、私は今一度ヨブ記を読み直しました。そしてこう考えるに至りました。ヨブ記はあくまで信仰の深さを試す物語だから、信者でない人は読む必要がないし、そもそも読むべきではない、と。だから私は、信者ではない畠中君には、創世記から申命記までの五冊を楽しみながら斜め読みしてもらうのがいい、という結論に至りました。ご参考までに。


 こんなに長い LINE をもらったのは生まれて初めてだ。その長さ、その内容、そしてその真摯さにわたしはすっかり心を打たれてしまった。

 そして、気軽に質問して気軽な答えを期待していたわたしがいかに軽薄なクソ女なのかを、ガッちゃんのこの文面はとことん思い知らせてくれた。


 わたしはこのように亀レスすべきだったのだ。

 LINE に返信するのがめんどうだからもうしない、と一方的にガキっぽく縁を切ってはいけなかったのだ。

 一見くだらなく見えるメッセージにも、時間をかけて真摯に向き合い、自分の言葉で誠実に返信し、〈わたしは即レスはできないけれどもこんな風にあなたのことを大事に思っています〉と相手に伝えるべきだったのだ。

 そうすれば相手だって、久保田はこういうヤツだから、と亀レスに腹を立てることもなかっただろう。

 そしてわたしのほうだって、今では縁の切れてしまった友だちと、わたしが望むような穏やかな関係を発展的に築けていたかもしれなかったのだ。


 いつもだったら脊髄反射で〈ありがとう!〉と返信するところを、わたしは一時間考えてノートにお礼の草稿を書き、推敲し、何度も何度も読み直して、

(よし、これでいくぞ!)

と心の中で気合を入れてから、その文章を LINE に打ち込んで、ミスがないかチェックしたのち、ようやくガッちゃんに返信した。

 こんなに満たされた気持ちで LINE を送るのも生まれて初めてのことだった。

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