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めんどくさい女の子たち  作者: あかなめ
第六章 久保田友恵と稲垣良美
124/334

123 厄災

登場人物

・久保田友恵(トモちゃん)中一女子

・畠中祐生ゆうき(ハタケ)久保田友恵のとなりの席のチャラい水泳部員

・増田敏生としき(マスオ)久保田友恵の同級生で硬派の剣道部員(肋骨骨折中)

挿絵(By みてみん)


 放課後、ハタケとマスオとわたしは机をくっつけた。

「あたし、月曜日は用があって」とわたしは二人に言った。

「じゃあオレ、スイミング行こっかなー」とハタケが言った。「マスオ、病院はいつ?」

「水曜日」

「そっかー」

「月曜は部活に顔出すよ。なんにもできないけど」

「上半身の運動はまったくダメ?」

「ああ。あと跳ねたりもできない」

「じゃあスローなスクワットだな。一回に十秒くらいかけるやつ」

「あ、それならできる」

「あと、肘ついて握力や手首の筋トレってのもできるぞー」

「おめえ詳しいな」

「そりゃあキン肉マンだから」

「きんにくまん? アンパンマンにそんなのいたっけ?」

 そんなふうに二人はとても楽しそうに話していた。

 男子ってなんでみんな筋トレが好きなんだろ? なにが楽しいんだろ?


 昨日はおしゃべりばかりしていたが、今日は三人が三人とも自分の世界に没入していた。とくにハタケはもう完全に別人だった。

 負けてはいられないと、わたしも小さな聖書に目を落とす。


 敵の前に四千の兵が死ぬ。

 神に頼り、神に見捨てられた三万の兵がさらに死ぬ。

 神の箱は敵に奪われ、不徳な祭司たちが預言通りに死ぬ。

 その親である大祭司エリは四〇年に渡り神を讃えイスラエルを治めたが、子を正せなかった罰としてこれも預言の通りあっけなく死ぬ。

 殺す神に支配された土地において、人々は敵も味方も誰一人神を恨まず、ただ畏れ、厄災を甘んじて受けるほか何のすべもない。そんな圧倒的に無力な人々が生きる砂漠の世界──。


 ハタケ、これが〈世界観〉ってやつなんだな。


 いっしょに何をするわけでもないのに、そばに人が座っていて、同じ空気に包まれている。わたしはこの空気が好きだ。

 わたしがハブられなくなったら、この居心地のいい集いも終わってしまうのかな?

 それも仕方がないだろう。

 わたしは再び目を落とす。


 敵の手に落ちた神の箱は行く先々で無差別に厄災をばらまく。神の箱は雌牛の牛車でイスラエルへ返され、牛は生贄にされる。まったく、この世界ではなにかにつけすぐに生贄だ。まるで「とりあえず生」みたいに。

 血を捧げるのかな? 牛だからものすごい血の量なんだろうな。

 そうやってめでたく故国に帰った神の箱はしかし、箱の扱いについての作法を過った罪で次々と住民を殺しまくる。それでも住民は神の殺戮へ何の不平を言うでもなく、当たり前のように罰をそのまま受け入れる。

 ……うーん、たしかにヤバい世界観だ。


「ねえトモちゃん」とハタケが言った。「どこまで読んだ?」

「6章を読み終えたところ」

「オレは14章」

「さすがに読むの早いね」

「文字がデカいとチョー読みやすいよ」

「そうだよね」

「マスオ、おめーは?」

「円すいの表面積の問題をやった」

「うーん、えらい!」とハタケがマスオの頭を撫でた。


「ねえ」とハタケがわたしに言った。「今日はでっかい方を貸してくんないかなあ?」

「いいけど重いよ。1.4キロもあるよ」

「アハハ、水泳部なめんなよー」とハタケが笑った。「オレはねー、トモちゃんくらいならお姫様抱っこだってできるんだからなー」

「じゃあやってよ」


 わたしの言葉に、えっ、とハタケがひるんだ。マスオも、ええええーっ、と目を見開いている。

「ホントはできないんでしょ?」

「い、いやー、そりゃあ、できるんだけどさー」

「やったことないんでしょ?」

「あ、あるよー!」

「えっ? あるの?」

「……男子だけどー」


 それでわたしは気が済んだ。

「ごめんね、変なこと言って」

「でもさあ、そんなにお姫様抱っこされたいんなら、やってあげてもべつにいいんだけど……」

「大丈夫、もう正気に戻ったから」

「そ、そう。……そりゃあよかったネ」

「雪で濡らさないようにね。買うと多分すっごい高いから」

「おう、ありがとー」


 ハタケは撒き餌を撒いて食いついてきた女を戴く卑怯者だ──というマスオの説をわたしはつい確かめてみたくなったのだ。

 結果、マスオの説は間違いだということがわかった。

 まあそれはそれでよかったのだが、あの刹那の浮かれたわたしは、べつに戴かれてもいいかな、と思ってたりもしていた。


 今日はわたしも小さい方を家に持って帰ることにした。

 ハタケは週末でサムエル記を読了するだろう。だからわたしも読み終えたいと思ったのだ。

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