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めんどくさい女の子たち  作者: あかなめ
第六章 久保田友恵と稲垣良美
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121 世界観

登場人物

・久保田友恵(トモちゃん)中一女子

・稲垣良美(ガッちゃん)久保田友恵の同級生でクリスチャン

・柊響(ひびきちゃん)久保田友恵の友だちで同級生

・畠中祐生ゆうき(ハタケ)久保田友恵のとなりの席のチャラい水泳部員

挿絵(By みてみん)


「月曜日に何かあるの?」とガッちゃんは険しい顔でひびきちゃんに尋ねた。

 すっごく警戒してそう。ガッちゃんはまだひびきちゃんにわだかまりがあるのかな?

 しかしひびきちゃんはそんなことにはお構いなく、

「それがわかんないんだよなー」

と呑気に答えた。その空気を読まない様子にガッちゃんは少しムカついたようだ。

「わかんないのにあたしを誘ってるの?」

 ああ、やっぱりこの二人は相性が悪いのかな……。


「ほら、前に話してた三年生たちが来てくれるんだよ」とわたしは言った。

 するとガッちゃんはわたしのほうを向いて、

「ああ、あれね」

と表情を緩ませた。「うまくやったんだね」

「いやいや、ぜんぜんうまくないよ。でも精一杯やってみたら、なんとかしてもらえたんだよ」

「そう? そりゃあすごいねえ!」とガッちゃんはニコニコ顔に。「じゃああたしも行かないとね、なんとしてでも」


「ねえ、さっきからなに話してんの? わけわかんなすぎて、まるでスパイ同士の会話だよ」とひびきちゃんが不満げに言った。「三年生がウチ来るのって、もしかしてトモちゃんが計画したの?」

「違うよ」とわたしは答えた。「発端はガッちゃん。で、あたしはガッちゃんにけしかけられて三年生の教室に入っただけ。首尾よく計画したのはぜんぜん別の人なんだ」

「別の人って?」

「柊さんの知らない人よ」とガッちゃんが勝ち誇った顔でひびきちゃんに答えた。

「えー? 誰なのトモちゃん?」

「ごめん、あたしもよく知らないんだ」

「なにそれ? わけわかんない!」

「じゃあ月曜日にいっしょに帰ろうね」とわたしはガッちゃんに言った。ガッちゃんはとってもいい表情で、うん、とうなずいた。


 わたしが席に着くとハタケが身を乗り出して話しかけてきた。

「トモちゃん、これヤベーよー!」

 手には昨日貸した携帯用の聖書が。

「ヤバいって、……引いちゃった、のかな?」

 まあ引くよな。わたしは三章までしか読んでいないけど、わけわかんないことだらけだったし。そんな話を、読む義理なんてなにもないハタケに読んでもらおうってのがどだい都合のよすぎる話だったのだ。こうやってわたしへフツーに声をかけてくれるだけでも感謝しないと。


「逆だよッ! 引き込まれすぎてヤベーんだ。でも宿題もあるし、とりあえず十章までで止めたけど、もうヤバいヤバい。こんなヤバいの初めてだよー」

「十章も読んだの! 信じらんない!」

「トモちゃんは?」

「あたしはまだ三章」

「なんでそんなに遅いのー? そっちのほうが信じらんないよー」

 と、ここで朝礼のチャイムが鳴った。

 

 あんなわけのわかんないもの──と言ったらガッちゃんに怒られるけれど、とにかくわけのわかんない箇所が多すぎるあのサムエル記を、なんでハタケは十章まで一気読みできるんだろうか?

 一時間目が終わったあと、わたしはハタケに尋ねた。

「わかんないとこ多すぎなかった?」

「だからトモちゃんは三章までしか読めなかったのかい?」

「そうだよ。ハタケにはわかるの?」

「わかんねーとこだらけだよー」


「じゃあなんで十章まで一気読みできるの?」

 わたしがそう尋ねると、ハタケは

「トモちゃんはわかってないなあ」

と呆れ顔で嘆いた。

「オレたちは信者でも学者でもないんだからさー、こまかいとこなんて、どーーーだっていいんだよ。要は好きなよーに読めばいーんだ」

「うーん、たしかにそうだね」

「トモちゃんは感じなかったのかい?」

「なにを?」

「なにって、あの圧倒的な世界観だよー! ハリポタですら遠く及ばない、あの、なんか、……あー、ぜんぜんうまく言えねえやー」

 ああ、ハタケはすごいんだな。些末なことと大事なことの違いが本能的にわかるんだ。


「そうだ、たとえばさ、貧乏ないじめられっ子が、神さまにバカなお願いをして、逆に天罰が下って殺される、って感じの非情きわまる世界、かな?」

「サムエル記ってそんな話なの?」

「うーん、ごめん、ぜんぜんちがうー。ぜんぜんうまく言えねー」


「わかったよ。あたしは細かいことばかり気にして世界を見失ってたんだね。木ばっか見て森が見えてなかったんだね」

「まあ、とりあえずザクザク大雑把に読み進めるといいんじゃねーかなー。そしたらきっと森も見えてくると思うよー……って、砂漠の話だから森は見えねーか、アハハ」

「うん、そうしてみるよ」


「想像するんだよ、トモちゃん」とハタケは言った。

「古代イスラエルなんてわけわかんない外国に来てさ、わけわかんない目にいーっぱい遭って、あーわけわかんねー、って思いながら、でもまわりを見ると、地にしっかり足をつけて暮らす人ばかりでさ、で、そんな人たちに混じって見様見真似で暮らしてると、たぶんある瞬間に、〈こういうことだったんだー〉って、パーッと世界が広がるのを、トモちゃんも感じることができると思うんだよ!」


 そう楽しそうに語るハタケの無邪気な言葉を聞いていると、ぜんぜんわけがわからないけど、なぜだかわたしはうるっときてしまった。

「それが〈世界観〉ってやつなんだね」

「そっ」

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