表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
めんどくさい女の子たち  作者: あかなめ
第六章 久保田友恵と稲垣良美
121/334

120 ライチョウ

登場人物

・久保田友恵(トモちゃん)中一女子

・柊響(ひびきちゃん)久保田友恵の友だちで同級生

・稲垣良美(ガッちゃん)久保田友恵の同級生でクリスチャン

挿絵(By みてみん)


 今朝は十センチくらい積もっていた。

 ひびきちゃんやわたしは徒歩通学だから雪が積もっても平気だが、自転車通学の人は自転車に乗れないので、延々と歩くか、あるいは親にこっそり車で送迎してもらうことになる。遠くに住む人は近所のママ友たちがかわりばんこに何人かまとめて送迎するので、一人っ子の家でも車はデカい。そういう人たちはわたしのように仲間の輪から出ることが許されない。


 気楽なわたしたちは雪の降る中を傘をさしてならんで歩く。

「今日も保健室でサボるの?」

「さすがにね、三日も続くと飽きてきちゃったよ」

 そう言うひびきちゃんは、ゲロを吐いた三日前よりはずっと元気そうだ。しかしわたしはこの元気そうな顔に何度も騙されてきたから油断はできない。


「保健室でなにをしてたの?」

「トモちゃんが来るのをずっと待ってたの」

 えっ?

「でもぜんぜん来てくれないから泣いてたの」

「い、行ったじゃない!」

「昨日は来てくれなかった」

「だって、またサボってるだけだと思ってたし、午前中は元気だったし……」

 わたしはそう言い訳しながらも不安になってきた。ゲロを吐いたときのあの真っ青な顔が頭に蘇る。そうだよ、体調が急に悪くなったのかもしれないんだし、わたしはやっぱり面倒がらずに五時間目のあと行くべきだったのだ。


「ウソだよ」

「はあ?」

 わたしはちょっとムッとした。なんか最近おちょくられてばかりいる気がする。体調が戻ったら一倍返しをしてやらないと。

「ただ目を閉じてたの」

「寝てたってこと?」

「だいたい合ってるけど、ちょっと違う」

 ひびきちゃんはそう言って立ち止まり、しんしんと降る雪で白くぼんやりとしか見えない遠くの立山のほうを見やった。


「月、火にあった学調の解き直しを、水、木にしてもらったの。で、今日もう一回自力で解いてもらう予定なの。みんな一生懸命なんだ」

「そりゃあ三年生はみんなピリピリしてるだろうね」

「そして彼方の立山ではね、冬羽で真っ白になったライチョウが、小さな冬芽なんかで飢えをしのぎながら、春が来るのをじいっと待ってるんだ」

「ライチョウ?」

「でもオコジョに食べられちゃうかもしれない。オコジョだって必死だから」

「……オコジョ?」


「なんかさ、目を閉じてそんなことを考えていると、わけもなく涙があふれてくるんだ」

「……そうなの」

 わたしは話がわからなさすぎて、ひどく安っぽい相槌しか打てなかった。

「胸の中に溜まった不快な熱が、泣くときれいさっぱりなくなるんだ。するとなんだか眠くなってきて、そのまま寝ちゃうの」

 そう言うと、ひびきちゃんは再び前を向いて歩き出した。

「だから保健室へは泣きに行ってるの。まあ、結果として寝ちゃうんだけどね」


「泣くとすっきりするよね」とわたしは言った。

「え? あたし、トモちゃんが泣いてるとこ見たことないよ」

「じつはちょっと苦手。ライチョウで泣けるひびきちゃんがうらやましいよ」

 昨日のことは内緒にしておいた。自分のことだけでアップアップな今のひびきちゃんに、わたしがハブられていることなんて知られたくはなかったのだ。


 教室に入ると、わたしはひびきちゃんの手を引いて、すでに席に座っていたガッちゃんのもとへ行った。

「ねえガッちゃん、月曜日の放課後空いてる?」

「まあ、あたしは十二月中ずっと空いてるけど」

「じゃあ、ひびきちゃん家に来てほしいんだけど」

「えっ?」とガッちゃんは戸惑いの表情を浮かべ、ひびきちゃんの顔を見上げた。

※ ★の評価や〈いいね〉、感想をひと言いただけると励みになります。よろしければご協力お願いします。

※ なろう非会員の方は X(twitter): https://x.com/super_akaname からでもどうぞお気軽に。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
  • ★の評価や〈いいね〉、感想をひと言いただけると励みになります。よろしければご協力お願いします。
  • なろう非会員の方は X(twitter)の固定ツイート へ〈いいね〉やコメントしていただけると嬉しいです。
小説家になろう 勝手にランキング
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ