12 カミングアウト?
登場人物
・柊響(ひびきちゃん)中一女子
・早川貴子(キーちゃん)高三女子で早川智子の姉
「ひびきちゃんって、ハグが好きだよね」
キーちゃんは少し困ったような顔をしてそう言った。
「だめですか?」
「だめじゃないけど、ひびきちゃんのハグって、なんか、ちょっと、……ヤラシイ感じがするの」
「ごめんなさい。人肌に飢えているんです。JCはボディ・タッチしないと死ぬ生き物なんです」
わたしの無茶な弁明にキーちゃんが微笑む。
「じゃあひびきちゃんは、いろんな人とあんな濃密なハグをしてるの?」
「まさか! そんなことをしてたらヘンタイ確定じゃないですか! 学校に行けなくなりますよ!」
「ひびきちゃんって、もしかして、女の子が好きな人なの?」
「んー、わかんないです」
「男の子を好きになったことは?」
「ないです」
あー、言っちゃったよ。
しかも即答。
キーちゃん、ドン引きしてるだろうなあ。
わたしはとっさに言葉を足した。
「自分の中では、男女でいがみあってた小学三年生のころから何にも変わらずに中学生になってしまった、って感じなんです」
「そうなんだ」
「はい」
「ふふ、なんかわかる気がするかも」
キーちゃんが優しく笑ってくれた。
どうやら、キモいよ死ね、とまでは思われてないようだ。
「じゃあ、恋をしたことは?」
「……ごめんなさい」
「え?」
「あたしにとってキーちゃんは大切な人だから、ウソはつきたくないんです」
「……」
「だから、今の質問については、……回答を差し控えさせていただきます」
ああああ、これじゃまるでうさんくさい政治家じゃないか。
なんにも悪いことしてないのに。
一体わたしはなにをやってるんだ?
もっとふさわしい言葉があるだろ。
しかし、言葉が、……なんにもでてこない。
いいや、言葉が出なくて当たり前なんだ。
わたしの中にははじめから言葉なんてないんだよ。
こういうことは考えないようにしてきたんだから。
制御不能の原発を分厚いコンクリートで封じ込めるようにして。
〈キーちゃんを解放してあげたい〉だなんて偉そうなことを考えてごめんなさい。
キーちゃんのことをあれこれ言う資格なんて、わたしにはぜんぜんないんだよな。
──恋をしたことは?
あります。キーちゃんに恋をしてるんです──声に出しては言えないけれど。
「ひびきちゃん、泣いてるの?」
わたしはうつむいて歯を食いしばったままポロポロ涙を流していた。
汚い鼻水も垂れてくる。
ただでさえひどい顔がますますひどくなる。
こんな顔をキーちゃんには見られたくない。
足に力が入らない。
わたしは床にしゃがみ込む。
キーちゃんもわたしのとなりにしゃがみ込む。
そしてわたしの肩に手をまわす。
「やめてください」
こういうことを望んでいたはずのわたしは、逆にキーちゃんの手を払いのけてしまった。
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