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めんどくさい女の子たち  作者: あかなめ
第六章 久保田友恵と稲垣良美
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118 ためらい

登場人物

・久保田友恵(トモちゃん)中一女子

・畠中祐生ゆうき(ハタケ)久保田友恵のとなりの席のチャラい水泳部員

・増田敏生としき(マスオ)久保田友恵の同級生で硬派の剣道部員(肋骨骨折中)

・稲垣良美(ガッちゃん)久保田友恵の同級生でクリスチャン

・柊響(ひびきちゃん)久保田友恵の友だちで同級生

・児玉くん 久保田友恵の同級生で稲垣良美の片想い相手

挿絵(By みてみん)


「気が向いたらでいいから、一緒に読んでほしいんだ」

「これを? 一緒に?」とハタケがためらった。

「じつはもう一冊あるんだよ」

 わたしは紙袋から小さい方の聖書を出し、机の上の大きい聖書と同じページを開いた。

「字ィちっちゃー」とハタケが言った。

「あたしは小さいのでいいよ。二人には大きいほうを読んでほしい」


「え? オレも読むの?」とマスオもためらった。「……えーと、えーと、聖書だからイヤというんじゃなくてさ、オレ、読書自体が苦手なんだよな」

「おめーがトモちゃんを泣かせたんだから、おめーは読め」

「読むの……?」


「あのね、イヤならいいんだ。だって、あたしと聖書を読んでたら、カルトの久保田に洗脳された、って陰口が広まるかもしんないし」

「うん、それはヤだなー」とハタケが言った。


 ……ショックだった。

 わたしは、読書家のハタケなら、軽いノリで一緒に読んでくれるだろうと期待していた。そしてハタケなら、強引にマスオを引き込んでくれるとも期待していた。

 そしてハタケが〈聖書読んでみたけど、おもしれーよ〉と軽いノリで言いふらしてくれれば、この重苦しい空気も変わるのではと期待していた。

 そうなったら、もしかしたら二人以外にも仲間が増えるかもしれない。

 ガッちゃんも合流してくれるかもしれない。

 そして、わたしたちに児玉くんが興味を示してくれるかも知れない──。


 そんなわたしの期待は期待のままむなしく消えようとしていた。


 しかしハタケはこう言った。

「でもさー、それでトモちゃんが泣き止むんだったら別にいいよー」

 え?

「家でも泣くなとはいわないよ。でも、オレの前では泣かないって約束できるんなら付き合うよ」

「あ、ありがとう……」

 こんちくしょー、ハタケはなんて意地悪なやつなんだ……。

「オイオイ、いきなり約束を破るやつがあるかよー!」


 下校のチャイムが鳴った。

 けっきょく今日は聖書を一文字も読めなかった。

「あー、おもしろかった!」とハタケが呑気に言った。「なあマスオ?」

「……うん、ああ」

「おめーさ、読書がイヤならとなりで勉強してろ。で、トモちゃんに教えてもらえ。柊さんがバケモンすぎてあんま目立たないけど、トモちゃんだってけっこー頭いいんだぞー」

「ああ、それくらい知ってるよ」

 ハタケ、ナイスフォロー。マスオがいてくれればハタケと二人っきりという気まずい状況にならなくてすむので大助かりだ。


 わたしが大小二冊の聖書を紙袋にしまおうとしていると、

「ねえトモちゃん」

とハタケが声をかけてきた。

「なに?」

「それ、学校に置いて帰るの?」

「うん」

「じゃあ、そのちっちゃいほう貸してー。明日ちゃんと持ってくるからー」

「いいけど、家で読むの?」

「オレはだれかさんと違って読書家なんだよー。で、どこ読んでるのー?」

「サムエル記っていうところの、ほんとの最初のほう」

「ふうん。じゃあ読んでみるよー」


 ハタケとマスオは先に帰り、教室にはもうわたし一人しか残っていない。

 わたしは背もたれにだらりと体を預けて放心する。

 くたびれた──。

 思えば今日はハタケのノリの軽さに救われっぱなしの一日だった。


 さんざん躊躇(ちゅうちょ)したあげく、わたしに初めてロザリオをチラ見させたときのガッちゃんはほんとうに鬼気迫っていた。そしてその決意の重さはわたしにそのまま乗り移り、これまでの友だち関係を精算しようだなんて悲壮な覚悟を決めてわたしは聖書を開いていた。

 わたしは何かに取り憑かれたような顔をしていたのだろう。そんな人がいたら誰だってキモいと思うに決まっている。カルトにハマってると疑われても当然だ。

 ガッちゃんとわたしに足りなかったのは、ハタケのあの軽やかさだ、とわたしは強く思い知らされた。

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