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めんどくさい女の子たち  作者: あかなめ
第六章 久保田友恵と稲垣良美
118/334

117 言えない

登場人物

・久保田友恵(トモちゃん)中一女子

・稲垣良美(ガッちゃん)久保田友恵の同級生でクリスチャン

・児玉くん 久保田友恵の同級生で稲垣良美の片想い相手

・畠中祐生ゆうき(ハタケ)久保田友恵のとなりの席のチャラい水泳部員

・増田敏生としき(マスオ)久保田友恵の同級生で硬派の剣道部員(肋骨骨折中)

挿絵(By みてみん)


 わたしがこれみよがしに聖書を読む理由はただひとつ──ガッちゃんが児玉くんに、自分がクリスチャンであることをカミングアウトするハードルを下げることだ。

 クリスチャンであることはハタケにはバレてしまった(というよりはガッちゃん自ら正体を明かした)のだが、児玉くんのことまでバラすわけにはいかない。そんなことをしたらわたしは二人しかいない親友の一人を失うことになってしまう。

「ハタケ、マスオ、ごめん。理由だけは言えないんだ」


「それが言えないとさー、トモちゃんのカルト疑惑は晴らせないんだよー」とハタケが言った。「何度も言ってるけどさー、オレはとなりの席の女子に泣かれるのがすっげーイヤなんだー」

「泣かないよ」

「なあ」と、ずっと黙って話を聞いていたマスオがわたしに言った。わたしの前の席に後ろ向きで座って、右の肋骨が痛むからだろう、右手はだらりと降ろし、左手だけで頬杖をついている。剣道部だからか、ムダに眼光が鋭い。

「オレは鈍いから、駆け引きみたいなのはぜんぜんわかんないけど」

 そう言ってマスオは鼻から息を、ふっ、と吐いた。

「なんか水臭くないか?」


 わたしは言葉に窮した。水臭い? 確かにそうだ。ハタケもマスオもわたしの協力者だ。だが、しかし、……わたしは何と言えばいい?

 わたしはありのままを言った。

「いま、あたしは言葉に窮しているんだ」

「窮してる? なんだか詩の朗読みたいだねー。いいじゃーん」とハタケが軽く言った。そんなハタケにマスオは顔をちょっとしかめる。


「あたしはね、ハブられ女子にあえて手を差し伸べてくれるような、男気のある二人のことが大好きだよ。……えーと、男が男に惚れるみたいな意味でね」

「オレもさー、女が女に惚れるみたいな意味でトモちゃんのことが大好きだよー」とハタケが言う。

「おい、茶化すなよ」とマスオが左手でハタケの額をつつく。


「でも、ホンットに悪いんだけど、あたしが聖書を読んでいる理由を二人には説明できないんだ。あたしの大事な友だちが、誰にも知られたくないと思ってることまで話さないといけなくなるんだ」

 わたしがそう言うと、ハタケはわたしの耳元で


 ──稲垣さんだろ?


と囁いた。わたしはそれに〈はい〉とも〈いいえ〉とも答えなかった。


 わたしは二人に感謝を示したかった。ガッちゃん流に言うなら、ひざまずいて足を洗ってあげたかった。心からそうしたかった。

 しかし、ガッちゃんだけはどうしても失いたくなかったのだ。

 たとえガッちゃんがいなくなっても、わたしにはひびきちゃんがいる? いや、ひびきちゃんはいま、心の半分以上を三年生にもっていかれている。そしてわたしは、ひびきちゃんがそのままぴゅーっと遠くへ飛んでいってしまうような気がしてならないでいる。

 だからカースト外にいるわたしがガッちゃんまで失うと、わたしは正真正銘のぼっちになってしまうかもしれない。


 そうなったらどうなるか? そんなことはもう怖くてわたしには考えられない。

 ぼっちが怖い──これではカースト内にいたころとなんにも変わらないじゃないか。

 そんな理由で〈ガッちゃんを失いたくない〉なんて思っているわたしはほんとうに最低なやつだ。吉田さんの言う通り、クソの中のクソだ。


 わたしはもういっぱいいっぱいだった。

 カーストのぬるま湯にどっぷり浸かって過ごしてきたわたしが、いきなり外側に出てタフに生きようだなんてどだいムリだったのだ。

 ハタケの言うとおり、わたしは〈そんなにタフな人じゃない〉人間だったのだ。


「二人ともこんなにいい人なのに、ごめんね、水臭くて……」

 わたしがそうムリに絞り出すと、胸の奥に溜め込んでいた感情の膿が溢れ出てどうしようもなくなってしまった。


「あーあ、やっぱり泣いちゃったよー。おめーが〈水臭い〉なんて酷いこと言うからだろー」

「……わりー、久保田。オレさ、鈍いから、言っちゃいけない言葉とかぜんぜんわかんなくて……」

 わたしは自分が泣いてしまったことが悔しかった。ぜんぶ自分ひとりで決めて勝手に始めたことなのに、それにまだ二日しか経ってないのに、いろんな人に迷惑ばかりかけて、なのに迷惑をかけた張本人が泣くなんて、……意味不明すぎるよ。


 ……でも、泣いている場合じゃない。

 これはチャンスなんだ。こんな絶好のチャンスはぜったいに逃してはいけない。

 わたしは鼻をずるずるさせながら二人に懇願した。

「ねえ、水臭いあたしのずうずうしいお願いを聞いてほしいんだ」

「お願い? それで泣き止むんならいくらでも聞くよー。何度でも繰り返すけど、オレはとにかく女子が泣いてる姿だけは見たくないんだよ」

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