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めんどくさい女の子たち  作者: あかなめ
第六章 久保田友恵と稲垣良美
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113 やさしさ

登場人物

・久保田友恵(トモちゃん)中一女子

・畠中祐生ゆうき(ハタケ)久保田友恵のとなりの席の水泳部員

・稲垣良美(ガッちゃん)久保田友恵の同級生でクリスチャン

・柊響(ひびきちゃん)久保田友恵の友だちで同級生

・吉田夏純かすみ 久保田友恵の同級生でクラス一おっかない女子

・安倍あきら(あーちゃん)久保田友恵の同級生で陽キャの美術部員

・川上風美ふみ(ふみちゃん)久保田友恵の同級生で陰キャの美術部員

挿絵(By みてみん)


 給食の時間、となりの席のハタケが、

「ねえ、いっしょに食べようよ」

と勝手に机をひっつけてきた。

 わたしは平静を装いつつも、チャラいキャラだとこういうことが何の他意もなくできてしまうのがすごいな、とひそかに驚いた。

「うん、食べよう。もう腹ペコだよ」

「オレも」

「ハタケはキン肉マンだから燃費が悪そうだよね」

「わかる? すぐ腹へるんだよ」


「でさあ、ハブられ初日はどうだった?」

 ハタケはまるで昨日見たアニメの感想を訊くノリで聞いてきた。ハタケの口にかかるとなにもかもが魔法のように軽くなる。

「心配してくれてるの?」

「当たり前じゃーん。となりで女子が泣いてたらヤだしー」

 駆け引きや悪だくみができるような脳みそはハタケにはない。ほんとうに〈泣かれたらイヤ〉という、ただそれだけの理由で話しかけてきているのだろう。


「うん、平気だよ」

「ほんと? 強がってない?」

「話しかけられないだけだし」

 嫌な顔をされるとか目を合わしてくれないとかもあるけれど、それはまあお互い様だ。悪口は LINE 内で完結していてわたしの目に入らないからどーでもいい。


「上履きに画鋲とか入ってなかった?」

「あー、そういうのも注意しないといけないかな?」

「物を隠されたりとか?」

「それやられたら百倍おおげさにして警察に電話するよ」

「先生じゃなくて?」

「ほら、先生って忙しいから。餅は餅屋、盗難ならやっぱ警察でしょ」

 学校に隠蔽する本能があることはわたしでなくても知っている。

「トモちゃんって意外にタフそうだね」

「へへーん」

「オレの知ってるトモちゃんはそんなにタフな人じゃないんだけどな」

 不意にそう言われてわたしは言葉が詰まった。わたしは熱心に給食を食べるふりをして聞き流すフリをした。


 なんの取り柄もないわたしは、ただカーストの力学を利用することだけで中の上の位置をずっと保っていた。当時のわたしはそうするしかなかった。

 しかし、そんなわたしが力の源であるカーストのルールをみずから捨てたのだ。それはヤクザが掟を破るのと本質的に変わらない。だからそれなりのしっぺ返しが来るのはとうぜんなのだ。

 わたしにはあーちゃんたちを責める資格はないし、どちらが正しいか争う気もない。

 しかし防御には全力を傾ける。利用できるものはなんでも利用する。吉田さんでも、ハタケでも。


「ハタケはなんでもうまそうに食べるから、なんだかいつもより給食がおいしく感じたよ」

「〈うまそう〉じゃなくて実際にうめーんだよ。〈空腹は最高の調味料〉って言うじゃん」

「アリストテレスの言葉だっけ?」

「え? そうなの?」

「んなわけないよー」

「ひっでー。オレをアホ扱いしてー」

「アホっぽいけどカッコいいのがキン肉マンなんだよ」

「ねえ、さっきから言ってる〈きんにくまん〉って何? アンパンマンのキャラクター?」

「知らないの? 昔の漫画で、ヒロアカの砂糖の元ネタだよ」

「へえ、そうなんだ。……ってオレ、あんな顔なの?」

「食べてるときはねー」

「マジかよー」


 ハブられたおかげで、今日はすでに三人ものやさしさを知ることができた。吉田さん、ハタケ、そしてふみちゃん。

 わたしの周りが大きく変わろうとしている。わたしはなんの取り柄もない、周りに生かされているだけの人間なので、周りが大きく変わればわたしも大きく変わってしまう。

 すべて周り次第。

 自分がどう変わるのかわからないのは正直怖い。

 けれども、わたしはわたしのやるべきことをやるしかない。ひびきちゃんを元気にし、ガッちゃんのカミングアウトを支えるべく、やれることをやれるだけやるのだ。

 そうすれば、ガッちゃんならこう言ってくれるだろう。


 ──あとは神様がなんとかしてくれるよ

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