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めんどくさい女の子たち  作者: あかなめ
第六章 久保田友恵と稲垣良美
112/334

111 計算

登場人物

・久保田友恵(トモちゃん)中一女子

・柊響(ひびきちゃん)久保田友恵の友だちで同級生

・稲垣良美(ガッちゃん)久保田友恵の同級生でクリスチャン

・吉田夏純かすみ 久保田友恵の同級生でクラス一おっかない女子

・畠中祐生ゆうき(ハタケ)久保田友恵のとなりの席の水泳部員

挿絵(By みてみん)


 わたしはツイ以前のクセで、友だち関係の力学をパパッと計算してしまう。


 ハブったりハブられたりというのはふつう女子の間だけで成り立つ。それも女子全員ではなく、カースト中位以下の女子に限定される。運動部や吹奏楽部で輝く上位カーストの女子たちは自信にみなぎっているから、そもそも LINE グループでのチンケな団結なんかまったく必要としていないのだ。


 カーストの外側には、ひびきちゃんと、ガッちゃん、そして吉田さんとその取り巻きがいる。この人たちには LINE グループの最大の武器である〈ハブる〉という行為がまったく通じない。まさに無敵だ。


 くわえてひびきちゃんは上位カーストの女子とも仲良くできる。やはり優れた人というのは優れた人たちと付き合いたくなるものなのだ。そしてわたしは嬉しいことにひびきちゃんのお気に入りのマスコットだ。だから少なくとも上位カーストの女子からわたしがハブられることはないだろう。


 吉田さんも頼りになる。カースト中位以下の女子は吉田さんのことを怖がっているからだ。さんざん陰口を言うくせに、本人には怖くて何も言えないでいる。まあこれについてはわたしも偉そうなことをいえたクチではないけれど。


 そして今しがた、吉田さんとわたしが仲良さげに教室に入る姿を彼女たちは目にしている。さぞ驚いただろう。だからそういう姿を何度も見せつければ、彼女たちはいま以上にさんざんわたしの陰口を言うだろうが、臆病さゆえ決してわたしに危害を加えられなくなる。


 結論──とくに何もしなくていい。


 一時間目の授業が終わったあと

「なんだかゴキゲンだね」

と、となりの席の畠中くん、通称〈ハタケ〉が話しかけてきた。

「わかる?」

「百円玉でも拾ったの?」

「ブー。ハタケじゃないんだから」

「もしかして五百円玉?」

「だからあたしはハタケとはちがうんだって」


 ハタケは水泳部で、背が高く胸板が厚い。顔もなかなかいいので、黙ってさえいればかなりモテるだろうに、とわたしは思う。

 ただノリがどうにもチャラくて、言っていることも小学生のバカ男子レベルなので、結果とても残念でもったいないことになっている。


「じつはあたしね、いまハブられてるの」

「ええー? 女子ってこわいねー!」

「でもね、痛くも痒くもないの。それが嬉しくてゴキゲンなの」

「トモちゃんさ、それってもしかして〈闇落ち〉ってやつ?」

「なんだよそれ?」

「復讐とかするんでしょ? うわー、女子っておっかないなー!」

「しないよ、そんなめんどくさいこと」


「なにがあったか知らないけど、オレはトモちゃんをハブらないからね」

「ありがとう。男子はめんどくさくないから羨ましいよ」

「じゃあさあ……」と、ハタケはカバンの中をゴソゴソし出した。

「どうしたの?」

「チンコあげるよ。これでトモちゃんも今日から単細胞な男子の仲間入りだよ」

 そう言ってハタケはうまい棒をわたしにくれた。

「ありがとう。立派なチンコだね」

「えー⁉︎ ちょっと、なんでそんなに冷静なんだよ⁉︎ そこは〈ハタケ、なに言ってんの、ヤラシー〉って照れてくれないと困るって」

「そんなこと言うの小学校低学年女子だけだよ」


 わたしはハタケとバカ話をしながら、それとなく周りの様子を観察していた。わたしがハタケから視線を外すと、少なくない人たちが視界の端っこで不自然に頭を動かし視線を逸らしていた。LINE グループの人たちが、わたしのことを見ないフリをして、じつはよく見ているのがよくわかった。

 ハタケは口さえ閉じていれば最上位層の男子だ。そんな男子と屈託なく談笑するわたしを見て、彼女たちはさぞムカついていることだろう。


 ……なんて計算しているようじゃまだまだダメなのだ。そういう幼稚なママゴトは彼女たちの土俵であり、わたしはそこから外側へ去らないといけないからだ。

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