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めんどくさい女の子たち  作者: あかなめ
第六章 久保田友恵と稲垣良美
109/334

108 あだ名

登場人物

・久保田友恵(トモちゃん)中一女子

・稲垣良美(ガッちゃん)久保田友恵の同級生でクリスチャン

・児玉くん 久保田友恵の同級生で稲垣良美の片想い相手

・柊響(ひびきちゃん)久保田友恵の友だちで同級生

・吉田夏純かすみ 久保田友恵の同級生でクラス一おっかない女子

挿絵(By みてみん)


 今朝はふわふわの雪が少しだけ舞っている。

「来週ね、三年生たちがウチ来るんだって」とひびきちゃんが眠そうな顔をして白い息を吐いた。

「知ってるよ」とわたしも白い息を吐いた。

「なんで知ってるの?」

 ひびきちゃんは驚いた様子でわたしの顔をまじまじと見る。今ので目が覚めたようだ。

「あたしも誘われたの。早川さんに」

「チーちゃんに? でも、なんでだろ?」


「ねえ、ガッちゃんも誘っていい?」

「は? なんでとつぜんガッちゃんが出てくるの?」

「ガッちゃん来るのイヤ? まだ気まずい?」

「いいや、そういうのはぜんぜんないけど、でもなんでとつぜんガッちゃんなの?」

「じゃあ声かけてみるね」

「教えてくれないの?」

「ごめん。今は言えないんだ」

「ふーん。まあいいや」とひびきちゃんはあっさり引き下がった。「それより、あの狭い家に七人も来るなんて生まれてはじめてだよ」


「ひびきちゃんってさ、三年生のことを〈チーちゃん〉とか〈りさりさ〉とか、フツーにあだ名で呼んでるよね」と、わたしはずっと感じていた違和感を投げかけた。壁を作るタイプのひびきちゃんがなぜ、まるでタメのように年上の人をあだ名呼びするのか、わたしには全然わからなかったのだ。

 わたしの質問にひびきちゃんは「がんばってるんだよ」とだけ答えた。

「がんばってあだ名で呼んでるの?」

「ほら、バンドってのはさ、気心が知れてないとうまくいかないんだ。あたし一人が〈早川さん〉とか〈式波さん〉みたいに堅苦しく呼んでたら、全体の空気も固くなっちゃって、演奏が死んでしまうんだよ」

「そういう理由があったんだ」

「うん」


「でも、もうバンドはやってないよね」

「だって、今さらチーちゃんを〈早川さん〉なんて呼べないよ。無理してがんばってたのがバレちゃうじゃない。バンドをやる中で育った人間関係がまるっきりウソになっちゃう」

 なるほど、言われてみればたしかにそうだ。あんないい人たちとの関係は、罪のないウソが少々混じっていたとしても、ぜったいに守り通さないといけない。

「ひびきちゃんって、対人関係のこともちゃんと考えてたんだね。意外」

「いいや、ふだんはぜんぜん考えてないよ。でも相手が三年生となったらさすがにキチンと考えるよ」

「ひびきちゃんでもそうなんだ」

 ひびきちゃんが馴れ馴れしい失礼な人ではなく、ちゃんと常識がある人なんだとわかってわたしはホッとした。


「児玉くんとかガッちゃんとかは、あたしのこと野生のサルみたいに思ってるけど、それは90%しか正しくないんだから」

「90%は正しいんだ」

 わたしは笑ってしまったが、ひびきちゃんはべつに冗談を言っているふうでもなかった。

「うん。だって、数人とかの小さなグループの中で嫌われないように汲々とするなんて、なんの苦行?ってしか思えないし、そんなの女子力ゼロのあたしにはムリなんだよ。それがあたしの90%」

 わたしもムリ──と最近思うようになってきた。完全にひびきちゃんのせいだ。

「じつはあたしも最近そんなふうに思ってるの」

「やっぱり? なんかそんな気がしてた」

「うん」


「で、残り10%はサルじゃなくてモンスター」

「モンスター? 礼儀正しい人間じゃないの?」

「自分で自分を振り回す制御困難なモンスター。がんばって人間のフリをするんだけど全然ダメなポンコツ。こんな面倒なヤツ、前はいなかったのに」

 じつはあたしも──と言おうとしたが、この話題はスルーしないといけないなと思い、わたしは言うのをやめた。


 教室に入って席につくなり、わたしのほうへ吉田さんがヅカヅカやってきて、

「久保田、こっちへ来い」

と、わたしの腕をガシッとつかんで廊下へ引っ張っていった。

 昨夜の吉田さんの LINE、


 ──大丈夫か?


 あれは誤爆じゃなかったんだ、と思いながら、わたしはなんの抵抗もせず、されるがままに着いていった。

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