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めんどくさい女の子たち  作者: あかなめ
第六章 久保田友恵と稲垣良美
106/334

105 キャラ

登場人物

・久保田友恵(トモちゃん)中一女子

・柊響(ひびきちゃん)久保田友恵の友だちで同級生

・チーちゃん(早川智子)(元気担当、ボーカル、リーダー)

・すずみ(杉本鈴美)(厨二病担当、キーボード+打ち込み)

・りさりさ(式波里砂)(クール担当、ベース)

円谷つぶらや先生 保健室の先生で〈エンヤ婆〉と呼ばれている

挿絵(By みてみん)


「ひびきちゃん、今まで人に心を開いたことがなかったんで、いま、ちょっと自分のキャラ作りに苦戦してるんです」

「なんだよそれ?」と早川さんが呆れ顔で訊いてきた。まあ、当たり前だ。


「壁を作ったかと思えば急にフレンドリーになったりして、ちょっと情緒不安定に見えるんです」

「たとえば?」

「あたしが K-POP の話をしたらドン引きして……」

 わたしがそう言いかけると早川さんがすかさず反応した。

「あいつの音楽へのこだわりは異常だからな。あいつの音楽談義を聞かされるといつも ♪ 21st century schizoid man ♪って歌いたくなるんだ」

 早川さんが鼻歌を交えて言う。英語の発音がすごくきれいだ。

「なんて意味なんですか?」

「21世紀の精神異常者」と式波さんがぶっきらぼうに言う。

「キンクリはいいからさ」と杉本さんが諌める。

 キンクリって人の歌なのか。キンプリみたいなモンなのかな? まあいいや、スルーしよう。


「で、ドン引きしたひびきちゃんがどうしたの?」と杉本さん。

「でもその一分後にはハグしてきたりして」とわたしが精神異常ぶりを説明する。

「そりゃあ変だ」と早川さんは断言したが、こんどは鼻歌を歌わなかった。洒落(しゃれ)にならないからだろう。


「だから、みなさんに心の開き方のお手本を見せてやってほしいんです」

「というと?」

「ひびきちゃんが与えるものを、みなさんは快く受け取ってくれました。だからひびきちゃんは自分が与えるときは心が開けているんです。ですが受け取るときは依然として壁をつくったままなんです」

「つまり、ウチらが与えろと?」

「生意気言ってすみません」

「いやいや、いいんだよ」と杉本さんがフォローしてくれた。「ウチらだって、借りはできるだけ減らしておきたいな、っていつも思ってるんだから」

「ほんとうにありがとうございます」

 もう、みんなやさしすぎるよ。こんなやさしい人たちを独りよがりな理由で憎んでいたなんて、わたしは自分の幼さが恥ずかしくてたまらなかった。


「でもあいつ、なにかほしいものなんてあんのかな?」と早川さんが二人に尋ねた。「ハグでもしてほしいのかな?」

「いやー、そいつはカンベン」と杉本さんが言った。

「あたしもヤだな」と早川さんも同意する。

 すると式波さんがおもむろに

「まかせろ」

と言った。


「りさりさ、なんかアイディアあんのか?」

「あとで話す」

 早川さんにそう言うと、長身の式波さんはすっと立ち上がって背の低いわたしを見下ろした。そしてわたしの両肩に手を置くと、

「おまえ、いいやつだな」

と低い声で言った。それはもうほとんど壁ドンで、わたしはすっかりドキドキしてしまった。


 わたしはその足で保健室へ向かったが、ひびきちゃんはもういなかった。

「あの子ならもう教室に戻ったよ」と円谷(つぶらや)先生が教えてくれた。

「様子はどうでした?」

「今日はなんともなかったよ」

「ええっ? じゃあ単純にサボってただけなんですか?」

「でもね、疲れてるのは確かだよ」と先生はわたしを諭した。「あれは一晩寝れば取れるタイプの疲れじゃない。たぶん神経性だね」

「どうしたらいいんですか?」

「ストレスを減らす。そして寝る。以上」

「薬とかはないんですね」

「だからあの子には、いつでもサボりにきなさい、と言ってあるよ」

「先生がそんなこと言っていいんですか?」

「がんばりすぎる子にはそれくらい言ったほうがちょうどいいんだよ」


 わたしが教室に戻ったのは五時間目が始まる直前だった。

「もう、どこ行ってたの?」とひびきちゃんが元気そうに尋ねた。「お昼いっしょに食べようと思ったのに」

「食欲が戻ったんだね」

「トモちゃんのおかげだよ」

 そう言ってひびきちゃんはわたしの目を熱く見つめてくる。だから、コトバが途切れたあとの二秒間でわたしの胸はすっかり締め付けられてしまう。

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