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めんどくさい女の子たち  作者: あかなめ
第六章 久保田友恵と稲垣良美
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104 感謝

登場人物

・久保田友恵(トモちゃん)中一女子

・柊響(ひびきちゃん)久保田友恵の友だちで同級生

・稲垣良美(ガッちゃん)久保田友恵の同級生でクリスチャン

・児玉くん 久保田友恵の同級生で稲垣良美の片想い相手

・チーちゃん(早川智子)(元気担当、ボーカル、リーダー)

・すずみ(杉本鈴美)(厨二病担当、キーボード+打ち込み)

・りさりさ(式波里砂)(クール担当、ベース)

挿絵(By みてみん)


「ウチら、トモちゃんに感謝されることなんてなんもしてねーよ」と早川さんが不思議そうに言った。もっともだ。

「ひびきちゃんのことです」

「ああ、柊か。あいつはスゲーよ。タダであんなに教えてもらって、感謝するのはこっちのほうだ。なあ」

「ああ」と式波さんが同意した。

「あの脳みそはまるで異世界からの転生者だよ」と杉本さんが言った。


「ひびきちゃんは、ちょっとよそよそしいというか、人と壁を作るタイプの人だったんです」

「へえ」と早川さんが言った。「まあ、ウチらと柊は三年と一年だからよそよそしくて当然だけどさ、トモちゃんにたいしてもそうなのか?」

「はい、以前はそうでした」

「今は違うんだな」

「みなさんのおかげなんです。みなさんと勉強させていただくようになって、ひびきちゃん、なんか変わったんです」


「チーちゃんさあ、ひびきちゃんはすごく礼儀正しいけど、ぜんぜんよそよそしくなんかないぞ」と式波さんが言った。「あいつは勉強についてはまったく容赦ない。ぐいぐい来る」

「ああ、そう言われるとそうだな。確かにぐいぐい来る」と早川さんは発言を訂正した。

「すごく腰が低いのに、圧がすさまじいよね」と杉本さんが言う。


 みんなにキスがしたくなる、とひびきちゃんは言っていた。じゃあ三年生が揃いも揃って〈ぐいぐい来る〉って言うのって……。えっ、ちょっとまって、まさか……。

「あのう……」

「ん?」

「〈ぐいぐい来る〉って、もしかして顔面が近いとか、そういうことですか?」


 不安に駆られたわたしがそう尋ねると、三人はしばしきょとんとして、最初に早川さんが吹き出した。

「んなわけねーじゃん! 顔面がぐいぐい来たらヤバイでしょ!」と早川さんはわたしの質問に大ウケしていた。

「トモちゃんって天然?」と式波さんが笑いをこらえながら尋ねる。

「あのね、そういうんじゃなくてさ、痛いところを突いてくる、って意味なのッ!」と杉本さんが笑いながらもていねいにわたしへ説明してくれる。

 よかった。キスをせがんだりしてなかったんだ……。

 わたしは大きく安堵し、しぜんと顔がほころんだ。

 すると「トモちゃん、そこ、喜ぶところじゃないよ!」とクール担当の式波さんまで笑い出した。


「みなさんの人徳がひびきちゃんの心を開いてくれたんです」とわたしは三人に言った。

「おいおい〈人徳〉と来たよ」と早川さんが囃す。

「〈人徳〉の大バーゲンだな」と式波さんが早川さんに重ねる。

「ねえ、やめなよ」と杉本さんが二人を諌める。「トモちゃん、この二人はトモちゃんをバカにしてるんじゃなくて、〈人徳〉なんて急に言われて照れてるだけなんだから、悪く思わないでね」

「もちろんです」とわたしは答えた。


「みなさんにはホント感謝しかありません。あたし一人ではどうにもできなかったことなので」

「柊の心を開いてやろうなんてウチらは1ミリも思ってなかったんだけど、まあ、そういうことなら、ウチらもちょっとは借りを返せたってわけだ」


 わたしは思っていることがすぐ顔に出る単純な人間なので、口から出まかせの感謝を述べたところで、年上の三人にはウソがすぐにバレるんじゃないかと不安だった。しかし気づくと、わたしは心からこの三人に感謝をしていたのだ。

 そこにウソはぜんぜんない。この三人がいなければ、まちがいなくひびきちゃんはわたしに対してよそよそしいままだったハズだし、わたしともあんなふうにはならなかったハズだ。


 そしてガッちゃんという、わたしたちと違う思考回路を持つ友だちがいなければ、わたしは三人への感謝の気持ちに一生気づけなかった。

 さらには、そのガッちゃんが児玉くんに恋をして、児玉くんがひびきちゃんに恋をするという奇跡的な偶然がなければ、一見ただの堅物なガッちゃんとあんなに腹を割った話なんかぜったいにできなかった。


 さらにはさらには、児玉くんがひびきちゃんを好きになったのはバンド演奏を見たからであり、その演奏の機会はいま目の前にいる三年生たちが作ったのだ。


 それら偶然に次ぐ偶然が巡り巡って、わたしは今その三年生たちとここにいる。これはどう考えても運命としかわたしには思えなかった。


「ただ、ひとつ問題がありまして……」と、わたしは本題を切り出した。

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