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果実酒をぶちまけた悪役令嬢は兄弟子の魔法使いに嫁がされる

作者: 粂六介

 拝啓、前世と今世のお父様お母様。

 不肖の娘である(わたくし)アルメリアは本日盛大にやらかしてしまいました。


 国王陛下主催の晩餐会という華やかな場で、あろう事か招待客であらせられる隣国の宰相閣下に飲み物をぶちまけてしまったのです。


 隣国と言えば魔法で栄えた大帝国で、私も幼少の頃から大変お世話になっております。

 作物が豊富なだけが自慢の我が小国に、攻め入ることなく友好を示して下さる良き隣人。

 と、みせかけた脳筋実力主義な軍事国家。


 やらかしましたわ!!

 

 わざとでは無いのです!

 釈明をさせて下さい!!

 ちょっと、いやかなり驚く出来事がございまして。

 この度の夜会にはもうじき学院をご卒業なさる第2王子殿下もご出席なさってまして、一応婚約者候補としてご挨拶に向かわせて頂いたのです。

 乾杯の後とはいえ、ドリンクを片手に移動した事は深く反省しております。


 ですが突然婚約破棄されるってなんなんですの!!


 私はあくまで()()だったはずでいつの間に正式決定しましたの!?


 これではまるで悪役令嬢。

 前世の記憶で悪役令嬢の存在を知ってはいても、まさか私が悪役令嬢ポジだなんて・・・。

 まるで気が付かずのほほんと魔法ライフ満喫の日々を過ごし、有り余る魔力で好き放題した結果、隣国へと弟子に出され驚きと期待で満ち溢れた幼少期。

 純粋に楽しめたのは色々とタチの悪い兄弟子に出会うまででしたけれど。



 ・・・なんの話しだったかしら?


 そうそう、婚約者。

 そもそも隣国から戻るきっかけが第2王子殿下の婚約者候補に選ばれたためでした。

 お父様からお手紙が届いた際にお師匠様がショックで倒れてしまわれて、このまま帰国しても大丈夫だろうかと迷ったのです。

 ですが、横に居た兄弟子が珍しく笑みを浮かべていて、私が帰国するのがそんなに嬉しいのだと気付いたら心底悲しくて・・・。

 お師匠様には申し訳ありませんでしたが帰る決心がついたのです。

 


 ですからよくよく覚えております。


 あの時はちゃんと()()と付いておりました。


 なのに突然、名指しで()()()()を申し付けられて一体全体なんなのかと。

 しかも殿下の腕の中に居る可愛らしいお嬢さんは、おそらくヒロインか主人公。

 身分違いの熱愛劇はぜひとも他所でやって欲しいところ。




 と、ここまでが現実逃避です。


 ええ、現実逃避です。


 何故ならお酒をぶちまけた相手が悪過ぎるから。



 一応、顔見知りではあります。


 隣国へと着いた初日の顔合わせから、お師匠様の旦那様であらせられる宰相閣下の事は第2の父のごとく慕っております。

 ですがここは公の場で、相手は国賓。

 いかに親しい仲であろうとも許されないラインが存在する事を私は知っておりましてよ。



 ぶっちゃけもう自国の王族からの婚約破棄とかどうでもいい!!



 数々の国を武力で抑え込む帝国の帝王代理に対する非礼、斬首ですめば御の字だと思うんですの。


 連座だけはご勘弁願いたいですわ。




 ・・・手に残された空のグラス。


 横に立つナイスミドルなおじ様は紅く染まった衣を纏っていても麗しい立ち姿で。

 私の心はすでに絞首台に立つ罪人の如し。




 会場内の無音がより悲壮感を煽りますね。

 それに第2王子殿下(問題の発端)がゆっくりと後退しているのが腹立たしい。


 


 ・・・そういえば私得意魔法があったのですわ!


『浄化魔法』


 読んで字の如く、綺麗にするだけの魔法。

 狙った場所に淡い光が浮かぶと同時にシュワシュワと音を立てて布地を綺麗にしてくれる便利な魔法。

 現代人だった自分には掃除機も洗濯機も存在しない環境がとても苦痛で、頑張って覚えたんですよ。

 最初の頃は水魔法で丸洗いにして風魔法で乾燥させるという力技しか思い浮かばなくて、無事お師匠様に師事できて良かった良かった。

 とりあえず証拠隠滅成功ですがどうかしら?


「ありがとうアルメリア嬢、染み()綺麗になったようだ」


 あ、これは許されていない雰囲気。


「大変申し訳ございません。私の不注意で国賓の方に大変な粗相をしてしまいました」


 慌ててスカートをつまみカーテシーの姿勢を取る。

 横目に確認すると第2王子と主人公と思しき少女はおろか、その他の招待客までも視界から消えていた。

 相手の出方次第では国同士の全面戦争だってあり得るのだから仕方がないとは思うものの、誰か1人位いは助けて欲しい。


「相変わらずお転婆な様だね。元気な姿を見れて安心したよ」


 耳に心地良いバリトンの響きはとても朗らかだが、私は知っている。

 この方は国を落とす時もこのトーンである。


「それにこの様な華やかな場での突然の婚約破棄、君の心痛を思うととても攻める気にはならないな」


 絶対に嘘である!!

 何故ならこの方が液体を被る可能性は本来ならゼロだから!

 帝国でもトップクラスの風の魔術師。

 死角から飛んできた矢にさえ対処してみせる猛者。

 液体程度を躱わせないはずが無いのである!!


「しかしながら公の場で飲み物をかけられ、対処無しと言うのは中々どうして宜しく無い」


 1段低くなる声色に心臓をキュッと掴まれた気がする。

 目的は何かしら?


「婚約破棄されたばかりなのだから丁度良い。君への処分は『帝国の魔法師団長に嫁ぐ』事で良しとする。」


 なんですと!?


「先程君への挨拶に近づいたのはこの話をする為でも有ったんだ。口説く手間が省けた」


 嵌められた!?

 分かっていたけれど罠だった!!


「突然その様な事をおっしゃられましても傷物を押し付けられたらその師団長様も迷惑なのでは?」


 思わず顔をあげてしまったものの、宰相閣下は何故だか笑みを深めている。


「リフォリアだよ。現師団長は君の兄弟子だ」


 ・・・兄、弟子?


「先の戦功でもって昇進してね。陛下が褒賞に悩んでおられたので君を花嫁として貰い受ける事にした。無論こちらの王より了承は得ていて、君の拒否権は先程消えてしまった。これで我が愛しのリリーの憂いも晴れるだろう」


 最後のいち文で、そういえばこの方お師匠様を溺愛してるんだよなとどうでも良い事を思い出した。

 夫婦揃うと常にイチャイチャと・・・。


「リフォリア様と結婚!?」

「連れて来なくて正解だった。危うく大切な食在庫を塵にしてしまう所だ」


 大きなため息を吐いた宰相閣下は、馴染み深い養父の顔になっていた。


「君が帰った後どうしたら自分の奥さんになって貰えるかと相談に来てね」

「リフォリア様が?私を奥さんに??」

「君たちが惹かれ合っていたのは周知の事実だったからね」


 帝国にいた頃、私はリフォリア様に恋慕の情を抱いていた。

 小国とはいえ候爵家のうえ帝国の姫君を祖母に持つ私と、魔力が高いとはいえ男爵家の3男のリフォリア様。

 当時は叶うはずの無い恋だった。


「君に相応しい身分が欲しいと、単身敵国に乗り込んだ男だ。君が恥をかかされたと知ったら墓の数が増えただろう。」


 知らなかった事実は嬉しいけれど、墓の数は増えなくて良かった。


「今回の婚約破棄は話し合いで解決した事にするのが懸命だろうね」

 宰相閣下が指を動かすと、どこからか第2王子殿下が現れ、声も出せずに暴れている。

 見えない何かで拘束されているらしく、足元は僅かに浮いていた。

「私は後処理をしてくるから大人しく待機していてくれ」


 こうして華やかだったはずの舞踏会から帝国へと、私は直送される運びとなった。

 客観的には罠に嵌められ不運ともとれるだろうか。

 遠目に見かけた両親は笑顔で手を振っており、重鎮の方々はほっとした顔をしている。


 つまり、最初から話しは付いていて?


 恋焦がれていた方と結ばれる事が出来て?


 実は両想いだった!?




「わたくしは どんなかおして およめにいけばよろしいの?」


 取り出した扇で赤く染まっているだろう顔を隠し、しばしその場で打ち震えるのであった。


読んで頂きありがとうございます。

話を纏めるのが苦手でとりあえず短編を書いてみた結果がこれです。

少しでも楽しんで頂けたら幸いです。


以下は蛇足という名の裏設定です。


兄弟子は自身の爵位を得てから求婚すべく頑張っていたところ、他所の王族に横取りされ、子飼いを増やしたい宰相閣下に先を越される。

魔力操作に秀でた不憫な美人さん。


帝国では有名な両片想いだった為に裏で応援している人が多数。


第2王子は王位継承権を剥奪の後、愛しい女性と幸せな家庭を築きつつ帝国に扱き使われる事に。


王国は侯爵令嬢を嫁に出したのでお咎め無し。

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