遠征①
「友理さん、今回の遠征の話伺っても良いですか?」
「いいわよ。でも、今回も上手くいかなかったから、その点は先に伝えておくわね」
友理は言い慣れたようにチョケ本へ前置きをした上で語り始めた。
「まず初めに、今回の成果は彼の意識が徐々にハッキリしてきていることね。ただ今回は何日もループしたから、もしかするとループする回数によるのかもしれないのだけど。
次に、太陽の位置は変わることなく、どれだけ歩いても、山まで辿り着くことができないのはかわらなかったわね。おそらく魔力による干渉が原因で、強引に突破するとしても最上位魔法クラスでないと難しいかもしれない……。
それに伴って私があの場所で使える魔法のテスト結果はこんな感じ。使用可能武具はAランクまで。攻撃系の魔法は発動不可。精神干渉系統や概念系統はもちろんのこと、自分以外に影響を与える魔法は全て発動不可。一言でまとめると、私にとって相性最悪の場所ね。
こっちに戻ってきてからとしては、Aランクのフロストデーモン討伐。身体能力はSランクまで向上、代わりに魔力は一切操作できなくなるわね。
具現化した竹刀の推定ランクはランクC、もちろんこの身体能力ランクで使ったら一度で消滅。ただ以前より耐久力は上がっているみたいで、一振り振り切るまでなんとか耐えたのは今回が初めてだったわ」
「やっぱり友理さんすごいですね! 魔法使いでありながら、身体能力がSランクだなんて! Sランクといったら、体術系が得意な厄災の方や上位のモンスターと引けを取らないじゃないですか!」
「ありがとう、チョケ本ちゃん。そう言ってもらえると、頑張りが報われる気持ちになれるわ……。でも、……やはり具現化させる武具を完全に覚醒させないと意味がないの」
「そう……、ですよね……。でも、時間は沢山ありますし、私にできることがあれば全力でサポートさせてします!」
「ありがとう! 本当に嬉しいわ!」
「ちなみに、今回はあの方との良い思い出というか、そっちの方での進展というかはあったりしましたか??」
「んー、無かったわけではないのだけど、話すのはやっぱり恥ずかしいわね……」
「えー、良いじゃないですか! 私いつもそれが楽しみでお留守番してるんですよ。私の使える観測魔法では遠征先の情報に全く干渉出来ないので、友理さんから聞くのが本当に楽しみで、楽しみで仕方がないんです!」
チョケ本はこれまでにない熱意を込め、友理を説得し始めた。
「そうだ! この間の『メモリーアウト』で追体験することはできませんか!? 今回は第6の厄災さんは関係ありませんよね?」
「できなくはないけど……、本当に見るの?」
「はい! ぜひお願いします!」
友理は若干嫌そうに振る舞いつつも、内心は女の子同士で恋バナをしたい願望が少なからずあったため、素直に了承をしていた。
「多分問題はないと思うのだけど、もし気分が悪くなったりしたら心の中ですぐに念じてね」
「わかりました! よろしくお願いします!」
普段は見せないような興奮具合で、チョケ本は返答した。ただ一見興奮しつつも、友理のために何か出来ることがないかという気持ちがしっかりと混ざっており、彼女らしい素直で優しい姿勢が目を見ればわかるのであった。
友理の手には以前の杖とは違い、永遠の杖が握られた。
「じゃあ、行くわね。『精神干渉系統中級魔法 メモリーアウト』」
魔法発動と同時に、チョケ本の意識は一瞬飛んだ。
意識が戻りまず初めに感じたのは、目線の高さが違うことだった。次に、自分の意思で体を動かすことができないことも瞬時に理解した。また、話すこともできないと把握し、この魔法が対象者の視覚情報をそのまま体験するものと理解した。
少し先に目線が向くと、一人の青年が倒れていた。その時友理の独り言が始まり、聴覚情報も体験できると理解した。
「今回の始まりもこの状況からね。南には太陽、北には山、地平線は存在しない。いつも通りなら彼が起きるまでしばらく時間あるから、今のうちにいくつか検証をしておきましょうか」
永遠の杖を取り出そうとするも上手くいかず、他の杖でいくつか魔法を試し始めた。
「『水系統最上位魔法 深海の圧』……。発動せず、そしてAランクの杖も壊れる傾向は無し。そもそもこの魔法発動に必要な魔力操作自体が出来ていないわね。そしたら、『炎系統上級魔法 フレイムブレット』……。これもさっきと同様ね」
その他にも攻撃系魔法をいくつも試したが、同様の結果が続いた。
「そろそろ彼が起きるわね。最初はいつも通り隠れて観察ね。いや、それもそうだけど話し方気合い入れないだわ。」
友理は普段それ程高い声ではなく、話し方も基本的には落ち着いている。むしろ数多の修羅場をくぐったことによる疲れが残る、歴戦の魔法使いのような話し方の方がしっくりとくるであろう。
「よし! それじゃあ今回も頑張っていきましょうか!『風系統中級魔法! プレセンスハイド!』」
普段からは想像できないテンションと声の高さ、ただ語尾は若干普段の感じが抜けきっていない話し方で魔法を唱えた。
魔法の効果としては、己の気配を風系統の力で周りから隠すもので、極端な接近か発動者が過度な動きをしない限り、効果を発揮するものだ。
その時チョケ本は、友理がこの場所では独り言が多いこと、話し方を若者風へ大きく変えたことに対し、普段見ない姿のためかなりの驚きを覚えていた。